第26話 上手くいかないとイラつくって!

 「あの音楽がこの世界にあるかは知らなかったけど、まさか自分から異能使うなんてね?隼人くん?」

 妖しく微笑みながら腰に下げたカトラスを抜いて、白く光る刃を隼人に向ける。

 彼は、慌てふためいて口をぱくぱくとさせていた。

 「ちっ、違う!僕は!」

 「だる」

 素早い動作で抜かれたナイフは、隼人の顔の横をすれすれで飛んで後ろの壁に突き刺さる。

 「悪かった・・ごめんなさい・・!僕が、富田隼人です・・」

 へなへなと膝が折れ、隼人は床に座り込んで項垂れてしまった。

 「で?」

 明らかに降参している彼に、茜はカトラスを持ったまま歩み寄る。



 「でって・・アレの件で来たんでしょう?」

 「アレ?」

 「・・え」

 隼人の言葉に目を丸くして驚く茜を、彼は見逃さず木の床から太い枝を瞬時に生やして壁を作り出した。

 「あっ!テメェこの野郎!」

 カウンターに続く道を枝に塞がれた茜は、大きな舌打ちを打ちそうになったがぐっとこらえ、大きく息を吸い込む。

 「勘違いしないで!アタシは、アドニス復興隊の高橋茜!異能者を守るためにここに来たの!」

 「今更そんな嘘が通るかっ!僕は、ただここで店を開いていたいだけだ!」

 怒号に続いて遠ざかる足音を、茜は太い枝の壁に塞がれて聞くだけしかできない。



 「これは・・隠せそうに、無いか」

 試しに枝に手の平を当ててみたが、本能に訴えかけるように異能が反応しない。まるで、飛べない高さの跳び箱を目の前にしているような感覚に、逃げていく隼人に、茜は焦り苛立ってカトラスで枝を斬りつけた。

 「マイタイは、この街に異能者はいないって言った。でもコイツが店を開いている。どういうことなの・・知らないのか、隠したいのか・・」

 「んぁ?茜やん」



 ここで起きた事を自分なりに考えて整理している背後で、あの陽気な声が聞こえる。じろりと頭を横に向けると、爽やかな汗を輝かせる忍がいた。

 「なにしてんやこんなとこで」

 「丁度良かった、この枝、吹っ飛ばして」

 「はぁ・・」

 ぞんざいに言葉を投げられても、忍は嫌な顔一つせずに木の枝に両手を当てて、小さな爆発を起こし、膝の高さくらいまでを残して吹き飛ばした。

 「あー、加減したらこれや。すまんな茜、ちょっと行きずらいわ」

 申し訳なさそうに謝る彼をおきざりにして、茜は走りながらジャンプして木の枝を飛び越える。勢いそのままにカウンターを踏み台に、奥に続く通路へと走る。

 「これは・・どえらい感じやな」

 背中の大きなリュックを背負い直して、忍も茜の後に遅れて続く。

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