第25話 アタシの出番じゃん?

 忍の派手な異能は、野次馬を呼ぶにはもってこいだった。

 街の外れにある農園には人だかりが出来、彼の戦いを一目見ようとする人たちが押し寄せている。

 「あの・・隼人さんに会いたいのですが・・・」

 「え!?あぁあの人なら、あっちに店構えてるよ。てかどいてくれないか?すごい異能者が猪男を退治してるんだろ!?」

 「そうですか、ありがとうございます」



 するすると群衆を抜けて、茜は雑に指差された方角へと、黒いケープをたなびかせながら進んで行く。顔にうっすら浮かぶ笑顔は、自信に満ちていた。

 通りから枝道に入ると、やはり店の数は減って住宅が目立つが、その中にもひっそりと経営をしている花屋や飲食店がまばらに建っている。

 隼人という人物が、どんな店を構えているのか。そもそも見た目も年齢も分からない、性別はおそらく男性だろう。

 住宅の並びから、茜はある建物の前で足を止める。

 「へーえ?」

 看板は無し、重たそうな木のドア、閉め切られた木の窓、建物の上の方にいくつか丸い窓があるその建物は、地味ではあるが住宅とも違うデザインをしていた。



 ドアベルが子気味良い音を立てて、見た目よりも軽かったドアが開く。

 3段のプランタースタンドが両端に置かれ、長い木の板の上には様々な種類の草花が植えられている。植木鉢には、人の名前や月日が記され、奥のカウンターの裏には奥に続く廊下と本がぎっしり詰まった本棚が置かれている。

 「いらっしゃいませー」

 茜が入店してから少し間を空けて、奥から細い男性の声がする。

 「すいません・・遅れてしまっ」

 黒いショートヘアの気弱そうな若い男性、白シャツにごわっとしたズボンにブーツといったこの世界では平凡な服装。

 どう見てもただの平凡な若者の表情は、茜を見るなり張り詰めていく。



 「・・なに?アタシの顔になんかついてる?」

 悪戯っぽく微笑んで、茜は腰に下げたカトラスの柄を指で撫でる。

 「いえ!そんなことは・・」

 「にしても地味な店だねー」

 相手の思いなど知らん顔で、茜はプランタースタンドに並んだ植木鉢を白い目で眺めていく。

 「ははっ、そのーまぁ・・あまり稼げていないので・・」

 苦しい愛想笑いを吐き出し、茜ではなく植木鉢に目を配りながらひっそりと警戒する。

 「それで?稼げもしないのに、この世界に留まって隼人くんはなにしてんの?」

 「隼人・・?僕は、ロバートですよ。隼人さんの店ならここじゃありません」

 「あら、人違いだったの!?」



 両手を合わせて口元に持ってきて、わざとらしく驚いて体を揺らす茜に、ロバートは呆れて溜息を、ゆっくりこぼす。

 「誤解が解けたようで良かったです。隼人さんのお店は、ここを出て」

 「じゃあ間違えたお詫びに面白い物見せてあげるよ」

 流暢に回るロバートの口に割り込み、茜は両手でケープをつまんで翼のように広げた。

 「なっ!?」

 明らかに慌てて冷や汗を噴き出す彼を、茜は見ていて愉快だなと思って口角が上がっていく。

 「ちゃららーちゃらららー」

 オリーブの首飾りをおどけたペースで口ずさみ、ケープで一番近くにあった植木鉢を、ロバートから見えないように隠す。

 「なにしてるんですかっ!やめてください!」

 「さーて、どうなる?」

 瞬間、プランタースタンドの木の板から、にょきにょきと新たな枝が生えて来て、茜がケープで隠した植木鉢が枝に支えられて天井近くまで上がって行った。

 「あ・・・」

 「鳩じゃなくて、嘘っぱちが出て来る手品でしたー」

 わざとらしく丁寧に頭を下げ、茜は隼人に向かって舌を垂らした。

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