第24話 お兄ちゃんにぃ!任しときぃ!
まだ魔王がいた頃、かの王の魔力によって動植物が魔物に変えられて人々を襲っていた時代。動植物のみならず、悪意に満ちた魔法を掛けられた建造物までもが脅威になっていた。
「なにあれ・・?」
現在アドニスに残っている魔物は、魔王から魔力を与えられることがないので、自分たちで種の繁栄を図るしかない。
「ムッキムキやん」
少年が先導して辿り着いたのは、街の外れにある農園だった。
広々とした農園には様々な野菜や果物の畑があり、周りは木の柵に囲まれているのだが、木の柵は無残に踏みしだかれていた。
「あれは、猪男だよ」
体調3メートルはある茶色い毛に覆われた猪男は、巨大化した蹄2本で立ち、丸太のような屈強な腕は人の物と同じ形をしていた。
大きな手を器用に使って農作物を掴んでゴフゴフと息を荒くして我が物顔で食べ漁る猪男の群れに、少年は今にも泣きそうになってしまう。
「まぁ任しときなってボウズ!忍お兄ちゃんが吹っ飛ばしてやるで!」
肩に手を置いて腕をぶんぶんと振り回しながら、農園に足を踏み入れる忍の後ろで、茜はその辺に置かれた樽に腰かけて煙草をふかす。
「お姉ちゃんは、行ってくれないの?」
当たり前のように少年に質問されても、彼女の態度は変わらない。
「あんなムサイの、マジ無理だから」
「そう・・だよね・・ごめんなさい」
裾を両手で掴んで俯く少年を横目に、茜はなんだかもやもやしてきて煙草を樽に押し当てた。
「てかさ、他に頼める人いなかったの?アタシらみたいなのに頼むなんて」
そもそも、アドニスで厄介者とされる異能者に頼む時点で、少年の方が悪いのだと茜は自分を正当化させようと試みる。
「だって・・」
「だって、なに?」
「隼人お兄ちゃんが、僕には出来ないって・・」
「隼人・・?それって・・」
「あヨイショー!」
茜と少年の会話に割って入る、空気を震わせる爆発音。
少年がはっとして音のした方に顔を向けると、先程までいた猪男の一体が遥か空中に吹き飛ばされていた。
「オラオラぁ!かかってこいやぁ!来んならこっちから行くでぇっ!」
完全に少年の興味が自分から忍に移って、茜は頭を抱えて溜息をこぼす。
「あの、バカ・・」
仲間を吹き飛ばされて雄たけびを上げる猪男たちが、両手を使った4足歩行で忍に突進してくる。
巨大化した牙を向けられても、忍はムエタイの構えを震わせる事も無く、右足を振り上げて猪男の顔面にハイキックを喰らわせて爆発させる。
低い悲鳴を上げながら倒れる仲間に怯む猪男の群れ。
「なんやムカつくのぉ!ビビるぐらいなら喧嘩売んなや雑魚が!」
忍はなるべく高くジャンプして、自分の足裏に爆発を起こして猪男に向かって飛ぶ。高速で動く忍に驚いている間に、彼の標的にされた魔物は爆発するニーキックで遥か彼方に吹き飛ばされていく。
「すっげぇ・・」
目を輝かせて忍の戦いに見とれる少年を放っておいて、茜は黒いケープをたなびかせてその場を後にする。
「ま、そっちは任せるわ」
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