第23話 てんやわんや
「寝室は2階にあるので、そちらでお休みください」
マイタイが作ってくれた料理をカウンターで受け取り、テーブル席で食べ終わってしばらく経って夜も遅くなった頃、彼に促されて2人は寝室に向かった。
部屋で荷物を降ろし、ゆっくりと伸びをしながらベッドに倒れる忍と対照的に、茜はさっさと動いて風呂に浸かっていた。
「ったく、なんなのアイツ・・」
自分とは対照的に、思った事をずけずけと周りの迷惑も考えずに口にする忍。
1日行動を共にして、彼のうるさい声やちょっかいがうっとおしいはずなのに、自分は心のどこかで、楽しいと思っている、ような気がする。
「やっぱ、ムカつくよなぁ」
石で出来た浴場を見渡し、湯を手ですくって顔を洗って気持ちを切り替える。
「アタシは1人、アタシは1人・・」
高校生ながらに、自分なりの生きる術を見つけている茜は、おまじないを唱えるように呟く。
湯船から立ち上がって結んだ髪をほどいた瞬間、茜の目の前にあった扉が勢いよく開かれた。
「おー!ここもデッカイ・・・」
「・・・」
「・・茜?」
「アンタ・・・」
「あー・・綺麗なDカップやん!?」
茜は両手の甲で太ももを思い切り叩き、カトラスを2本出して全裸の忍に向かって振りかぶった。
「死ね死ね死ねぇっ!」
「タンマタンマぁっ!知らんかったんやぁ!ごめんなさいぃぃっ!」
木で出来た扉に、カトラスの他に大量のナイフが刺さっていく。
2人の夜が、明けていく。
「おはようございます、茜さん忍さん」
朝になってカウンターからぺこりと頭をさげるマイタイに、忍は何とも言えない寂しい表情で頭を下げる。
「はい・・おはようございます」
茜は忍から離れた所で、誰が見ても不機嫌そうに煙草をふかしている。
「昨晩は、なにかあったのですか?」
「いや!?なんも!なんもないですハイ!」
「殺す・・殺す・・殺す・・・」
慌てて両手を振りながら立ち去る忍の後ろで、物騒な言葉を呟く茜。マイタイは、眉を曲げて困ったように2人を見送った。
「なぁ茜ぇ、悪かったって!ゴメンって!この通り!」
手を合わせて頭を下げる忍に、茜は煙草の煙を吹き当てる。
「殺す殺す殺す殺す殺す」
さっさと歩き出す茜に、肩を降ろしつつも、忍は後悔の念に襲われる。
「・・確か・・あの花やったはずや」
茜に聞こえないよう小さく呟き、深呼吸して朝の空気を体に取り入れてから彼女に続こうとした時、忍の足が止まった。
続くはずの茜が、止まっていたのだ。
「ねぇ、お姉さんとお兄さん・・異能・・者だよね?」
年端もいかない少年は、不安を露わに表情を歪めながら、縋るような目を茜に向けていた。
「・・違うけど」
「え・・そう、なん」
「待った待った!異能者やでボウズ!なんやあったんか!?」
面倒だと思ってあしらおうとした茜の避けて、忍は膝を着いて少年と同じ目線になって答えた。
「えっと・・」
白い目で自分を見下ろす茜と、優しい笑みを向けてくれる忍。2人はどういう人なんだろうと聞こうと思ったが、少年は唾を呑み込んで口を開く。
「あのね!魔物を倒して欲しいんだ!」
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