カペラ編

第22話 花の街・カペラ

 白い石畳で出来た道は夕日を吸い込み、木の建物の軒先には花の入った箱が溢れて道に色どりを添えている。

 「いらっしゃいませー!とても元気な向日葵はどうですかー!?」

 「うちには、パイナップルリリーやミニパイナップルもありますよ!」

 明るい声で道行く人に声を掛ける店もあれば、ひっそりと客を迎え入れる店もあり、カペラに着いた茜と忍は石畳に立ってしばらく街の様子を眺めていた。

 「なんや・・ええとこやん」

 「どうだろ」

 見とれる忍と対照的に、茜は茶色いセミロングをかきあげて歩き始める。

 「とりあず、カペラ支部に行くんでしょ?」

 あえて少し大きな声で茜が悪戯っぽく微笑んだ瞬間、近くにいた人たちの目つきが鋭くなって2人を睨む。

 「ほら?行こうって」

 「まー、そりゃそうやな」

 自分たちが招かれざる客なのだと分からされ、忍は黄色い短髪をゴシゴシとかいて茜に続いた。



 カペラ支部の建物はリゲルにあった物と大した差異は無く、強いて言えば近藤義雄が立てたのぼりが無いだけだった。

 「こんにちわ」

 スキンヘッドの温厚な顔立ちの大男がカウンターでぺこりと頭を下げる。

 「どーも」

 歩き疲れたのか、雑に挨拶を済ませて椅子に向かう茜を放っておいて、忍は大男のいるカウンターに近付く。

 「こんちわー!自分ら、リゲル支部から来た、アドニス復興隊のもんです!」

 「ほぉ?それはそれは、旅の疲れもあるでしょう」

 大男はカウンターの後ろにある棚から葡萄ジュースの入った瓶を取り出して木のコップに注ぐ。

 「私は、マイタイ。アドニス復興隊カペラ支部を任されている者です」

 「ご丁寧にどうも!俺は小野寺忍、あっちは高橋茜や!」

 マイタイが差し出したコップを2つ持って、茜のいるテーブル席に向かいながら、忍はカペラ支部の静かさが気になって振り返った。



 「そういや、ここって異能者はおらんのですか?」

 「あぁ・・それはですね・・・」

 申し訳なさそうに頭をぺこぺこ下げるマイタイの様子に、茜は怪訝な目を向ける。

 「カペラ支部にも、この街にも異能者はいないんですよ。面目ないです」

 「あっそ」

 葡萄ジュースで喉を鳴らし、茜はつまらなそうに言葉を吐き捨てる。



 「なんや残念やなー、もうちょっとこの街にいれたらよかったのになぁ?」

 わざとらしく声を張る忍の温かな笑みは、茜に向けられていた。

 「なに見てんの?」

 「茜、花に見とれてたやろ?」

 「はっ!?んなわけ」

 「ええってええって、女の子らしくて可愛いと思うで!」

 「おまっ!調子乗んなよ!?」

 「旅費もちょっとあるし、なんか買ってくか?」

 「いらねぇよ!それに、飾るとこ無いのに枯らすだけじゃ意味ないし!」

 「それでしたら、魔法で枯れないようにされている飾り花がございますよ」

 「マジっすかマイタイさん!?」

 「いらねって!」

 顔を赤らめながら抵抗する茜が面白くて、からかって愉快に笑う忍。

 こんな言い合いをさせられて、茜は不愉快だったが、胸の内にはなんだか小躍りしたくなるような気持が、砂粒程はあった。

 

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