第21話 最初の旅路
本来であれば、茜の訓練の時間を設ける予定だったのだが、呪いの関係で今2人は、リゲルの街を外から眺めている。
大きなリュックを背負った忍と、腰に巻いたベルトにカトラスとナイフを2本差した茜。
朝の陽ざしはまだ弱く、体を撫でる風と濡れた草木の匂いがたちこめている。
「ほな、行くか」
「はぁ・・かったる」
羊皮紙の地図を見ながら進む忍に、ダルそうに足を放って歩く茜が続く。
「んな事言ったって、呪いがあるんやし」
「分かってるって。んで、そのカペラまではどんくらいなの?」
昨日の話で、夕方頃には着くと言われ、背後にはまだリゲルが見えているのに関わらず聞いて来る茜の心境など、聞かなくても分かった。
「元気よう歩いとったら、あっちゅうまや!」
朗らかに笑う忍に、茜は聞こえるように溜息をこぼした。
「おー!でっか!」
陽が高く上って周りの緑に活気があふれた頃、しんどそうに歩いている茜の耳に忍の大声が響いた。
「なに?うっさいなぁ・・」
息を荒くしている彼女に忍は大きく手招きをする。
「ええからええから!来てみ!」
小高い丘に出来た轍を、ゆっくり踏んでいく。
「わぁ・・」
忍の隣に立った瞬間、茜は自分でも分からない程目を輝かせて目の前の景色に見とれた。
大きな湖は青空を映し、小さな鳥が水面で踊り、周りには様々な色の花が咲き、桟橋には釣りを楽しむ人がまばらに見える。
「ここらで昼飯にしようや!ピクニックみたいでええと思わん!?」
「いいじゃんいいじゃん!食べよ」
忍につられて子供のようにはしゃいだ茜は、言葉の途中で急に止まって小さな咳払いをした。
「・・アタシ、疲れたから」
「準備は俺がやるで!」
轍から外れた草の上に大きなリュックを降ろす忍の後ろ姿に、茜は口を尖らせながらも頬を赤く染めた。
リュックの中には、旅の助けになる道具が詰め込まれていた。
忍は丸めたシートを風になびかせながら敷き、4隅に適当な石を置く。
「美味そうやん!これ!」
食事は干し肉やパンといった長期保存が効く物を渡されていたが、初めての旅にそれでは味気ないと、ディキが手製のサンドウィッチを作ってくれた。
「へぇ・・」
シートに座って忍が取り出したサンドウィッチに、目を輝かせながらも前のめりには成り切らない彼女の態度は、傍から見れば生意気に見えて仕方ないのだが、忍はそんな事を一切気にしないで茜にサンドウィッチを渡す。
「ほな、いただきまーす!」
「アンタ、いただきます言うの?子供っぽくない?」
「ん?そうなん?気にした事なかったわ」
期待するような目で茜を見つめる忍。
「・・え、言うの?アタシも?」
「みんなが言わんと食えんやん」
少し間を置いて、観念した茜は少し息を吸う。
「いただき・・ます」
「しゃあ!食おうや!」
茜は、最後に家族とご飯を食べたのはいつだったのか。いただきますと言ったのはどれぐらい前だったのか、ぼんやり考えながらサンドウィッチを口に運んだ。
「うまっ!」
野菜と肉の香ばしい風味と味に、考えはさっさと消えていった。
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