第27話 追跡

 自分が来た時には、太い枝が何本か生えて茜の目の前に壁となっていた。

 彼女は、それを壊せと言った。

 「茜!一体何があったんや!?」

 廊下の先にある開いたドアをくぐると、こざっぱりとした部屋に出た。

 「ここ、誰かの部屋なんか?」

 生活感にあふれた部屋には、本棚やベッドやキッチンなどが置かれ、所々に植木鉢が元気な草花を咲かせていた。

 茜は、開け放たれたベランダに続くドアの前で立ち尽くしている。



 カトラスを鞘に収め、顎に手を当てて何やら考え込んでいる茜に、忍はここで何があったのか聞きたかったが堪えようと努力してみる。

 「あー、この植木鉢ええ感じやん!?」

 パンジーの植木鉢を指差して元気よく言ってみたが、茜はうんともすんとも言わないので、忍は空気が張り詰めていく感覚を覚える。

 「これあれやろ・・アカン、名前分からんわ!学校で咲いてたのは覚えてるんやけどなぁ・・てか、何があったのかそろそろ教えんかい!意味不明や!」

 「忍」

 「あ!?なんや!」

 「このベッド、どかせる?」

 「・・それどかしたら、何があったのか話すんならええで」

 「異能者よ、富田隼人。マイタイはいないって言ってたけど、ここで店を開いて、カペラの人もそれを知ってたわ」

 「でも、逃げてそのベランダの先に行ったんちゃうんか?」

 「いいから」



 呆れて溜息をこぼし、こちらを一切見ようとしない茜に、忍も流石に苛立ったのか、彼が思い切り蹴り上げたベッドは、後ろの壁と共に爆発四散した。

 「おら、どかしたで・・・って?」

 「ビンゴ」

 きょとんとする忍と、肩を小躍りさせる茜。

 2人の視線は、ベッドに下に作られた梯子と、その先に続く地下通路に向けられている。

 「アイツの異能、良くわかんないけど木を生やせるのよ。だったら、こんなベッドぐらい動かせるんじゃないかなって」

 「ほえー、そうやったんや」



 足早に梯子を降りようとする茜に、忍は声を掛けて止めた。

 「なぁ」

 眉間に皺を寄せ、上半身だけ出した状態で茜は忍を睨む。

 「なに?早くしないと逃げられるでしょ」

 「茜ってさ、めっちゃ頭ええんやな」

 「・・・うっせ」

 小さな文句を言う時には、茜はもう忍から見えなくなっていた。

 「なんやなんや?照れてんのか茜ー」

 彼女に続こうと膝を着いた瞬間、下から物凄い勢いで飛んできたナイフが、忍の顔面すれすれで抜けて天井に突き刺さった。

 「・・・・もう、来ませんよね?」

 「はよこいや!」



 地下通路は人が一人通れるほどの広さしか無く、剥き出しの土の壁を、木の板で乱暴に補強していた。

 この先に何があるのか、2人は唾を呑み込んで恐る恐る進んで行く。

 しばらく進んだ先に広がっていたのは、周りを柵で囲われた、白い花畑だった。

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