第19話 二面性
「アンタ・・泣いてんの・・?」
口から出た言葉は、想像以上に震えていた。会ってからまだ間もない忍だが、あまりにも彼に似合わない姿に、茜は自分の言葉を疑っていた。
「なんや、やっとこっち向いたんか」
いつも通りに喋る忍だが、今度は忍が茜の方を向こうとしない。
「思い出しとったんや・・茜を見ててな」
涙を拭おうとせず、流れるままに任せながら、彼は言葉が震えないように気をつけながら口を開く。
「俺の異能、爆発。これ言うとな?みんな俺の性格がそんな感じーみたいに思うねん。でも・・俺はそうは思えんのや」
「そう・・なんだ・・」
冷たい水が静かに流れているような空気が、2人の間にすっと馴染む。
茜は誰かに対して初めて、ちゃんと話を聞こうと思っていた。
「うちな?お袋が随分前に不倫してん。オヤジの転勤が多いとか・・まぁそんな理由や、昼ドラみたいやろ?オヤジは荒れて、妹も暗くなって、俺は・・身の回りの全部を吹っ飛ばしたい。それこそ、爆発させたいってずっと考えてたんや」
忍の話を聞いて、茜も自分の家族を思い返す。嫌いではあったが、特に事件の無かった家族。
「んで、人間暗なるとな?なんか弱く見えんねや。そうすっと舐められて、変な奴が集って来る。俺は、妹を守るために、自分のもやもやを晴らすために、色んな奴を殴って蹴りまくった」
だからこそ、自分を隠す必要があるのだと、茜は心の中で呟く。
弱かろうが強かろうが、隠してしまえば、誰にも何とも思われないで済む。
「俺が暴れたせいでオヤジが学校に呼び出されて、妹も連れて来られて。家族3人で先生に怒られた帰り。言われたんや、下になんも無いのに下向いてても埒があかんから・・皆で前向こうやって」
忍の目から流れていた涙がゆっくりと止まり始めて、彼の顔にも温もりが灯る。
「それからは、なんかあったら家族3人で乗り越えてやってきた。俺も喧嘩は止めたし、妹も暗い顔はせんようになった。んで、関東に戻って来て新しい高校に転校やって日の朝に、俺は車に轢かれて死んだんや」
降りかかった不幸を家族で乗り越え、新しい生活が始まる日に死んだというのに、忍の表情は温かなままだった。
そんな彼を見て、彼の話を聞いて、茜は眉間に皺を寄せて忍を睨みつける。
「なんで・・」
言葉が口から出るのに釣られて、胸の中のもやもやも一緒に引っ張りだされる。
「なんでそんな顔してんのよ!馬鹿じゃないの!?だったら尚更、アタシなんて相手にしてないで、早く悪い異能者を倒して、元の世界に帰らないとじゃない!妹もお父さんも、アンタの帰りを待ってるんでしょ!?」
思わず立ち上がって、思いの丈を叫んだ茜は、肩を揺らして息も切らしていた。それほどまでに、茜は彼の境遇を思っていた。
「・・茜さぁ」
それまで夕日を見上げるだけだった忍は、ゆっくりと立ち上がって茜に柔らかな笑みを向ける。
「隠さなきゃ、ちゃんと言えるやん」
生まれて初めてかもしれない、思いの丈をぶつけた事にようやく気付いた茜は、勢いよく彼に背中を向けて俯く。こんなに顔が熱くなったのも、彼女にとっては初めてだった。
「一目見た時にピンと来たんや、なんか俺と茜・・似てないようで似てる感じするって。改めて、よろしくな」
「・・うっせ」
ぼそりと呟く茜の言葉に、悪意が一切籠っていなかった為か、忍の愉快そうな笑い声は、本当に愉快そうに夕日の差す草原に響き渡った。
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