第18話 えらいことになったなぁ・・

 その後、忍を燃やした茜は当然のように他の人たちに怒られたが、不貞腐れたように顔を背ける彼女を庇ったのは忍だった。

 「へーきやって、ちょっとヒリっとするけどな?」

 髪も燃え、全身に火傷を負っているのに茜を庇う彼に開いた口が塞がらないアドニス復興隊。

 「ほら、どいたどいた!」

 後ろからアドニス復興隊を押しのけて現れたのは、金色のワンカールをなびかせるエプロンドレスを着た小柄な女性だった。

 「おぉ、ディキさん!あれ頼みますわ!」

 「全く、お前は・・」



 呆れて大きな溜息をつき、ディキは両手を忍に近付ける。

 「精霊よ、癒しを・・」

 温かな光が手の平から、たんぽぽの綿毛のように現れて忍の体に触れていく。徐々にではあるが、彼の火傷や燃えてしまった髪の毛が再生していく。

 「おぉー効くわぁこれ」

 「いいから、怪我を治す事に集中しな」

 「はいよー」

 小柄な外見から想像しにくい、シャキっとした口調のディキによって、忍の怪我が治り終わった頃。茜は、アドニス復興隊や忍に顔を合わせられず、座り込んだまま顔を俯かせていた。



 「茜ちゃんだね?異能の事は聞いたよ。それにしても、油と火を隠していたなんてね・・」

 彼女に対して何と声を掛ければ良いのか、アドニス復興隊の面々が表情を曇らせていた所に、ディキが茜に歩み寄る。

 「びっくりしたでほんま!」

 笑い飛ばしてから、忍は顎に手を当てる。

 「でもあれやな?俺の爆発は隠せないんか?」

 彼の言葉に、茜は無反応を貫きたかった。だが今、気に食わないが忍に対して寄り添わなければ、この場を乗り切れないと彼女は考えた。

 「あれは無理」

 「なんで?」

 「・・無理だから」

 「・・なるほどなぁ」

 忍は、呆れる事もせず、落胆もせずに茜の言葉を聞き、アドニス復興隊とディキに向き合った。



 「みんな悪いな!先戻っとってくれ!俺は茜と、話をしたいんや」

 「さっき忍を殺そうとした、その子と?正気なの!?」

 彼の提案に反対したのは斎藤詩織だった。

 「そうや?他の誰の話やと思っとんねん」

 斎藤詩織に続いて他の者も反対意見を述べていくが、一切譲らない忍に、ディキは腕を組んで大声を張り上げる。

 「ここは忍に任せよう。万が一があっても、自分で責任取りなよ?」

 「おう、当たり前やろ」



 言い合いもあって、陽は落ちかけて夕日が草原の2人を赤く照らす。

 他の者が去った後は、草木が風に揺れる音しかしない沈黙。

 「茜も大変やな」

 未だ座り込んで顔も合わせようとしない茜に対し、忍は地面に胡坐をかいてせめて同じ目線の高さになる。

 「そうやって、自分を隠さないと、自分を保てないんか?」

 「・・うるさい」

 「でもな?誰だって泣いたり笑ったりするんやから、そこ隠す必要は全然無いと思うで?」

 「見たのかよ・・」

 舌打ちを打ってからぼそりと呟く茜の言葉には、憎しみにも似た感情が籠っていた。

 「見てたし、聞いてた。好きでやっとるわけないってな」

 思った事を何でも言ってのける忍、とにかく爆発させるという異能が無くとも話しているだけで感じ取れる人間性。

 「アタシ、もういなくなるから・・」

 こいつとは一緒にはいられないと思って立ち上がろうとした時、体を動かした事で自然と顔の向きが動いた時、偶然忍の姿が目に入って茜は止まった。

 忍は、夕焼け空を見上げて、茜に見られないよう静かに涙を流していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る