第17話 分かりやすくて好きやわ!
茜が怒りに任せて矢を射続けるが、全て忍が発生させた爆発で吹き飛ばされていく。外れては、腰の辺りを手の甲で叩いてまた矢を出現させる。
「芸が無いでぇ!?」
先に膠着状態を破ったのは忍だった。彼は足元に小さな爆発を起こした勢いを使って素早く横に飛んで、茜の懐まで一直線に詰め寄る。
「どっちが?」
勝気に笑う忍に、にやりとしたり笑みを浮かべた茜は、弓を放って手の甲を腕に当てる。途端に、彼女の手の平から、黄色いとろっとした液体が噴射されて忍を濡らしていく。
「あぁ!?なんやコレ!」
顔から全身まで濡らされた忍は、足を止めて彼女から距離を取る。
匂いを嗅いで、液体の正体が分かった瞬間、忍の表情が強張る様を、茜は見ていて本当に心地良かった。
「燃えろぉっ!」
続いて手の甲を当てて、手の平から噴射された炎が忍に迫る。
茜にとって、小野寺忍という人間は、理由は分からないが許せない存在だった。
彼が話し掛けて来た時、思った事をずけずけと周りを気にせず口にする彼が、彼女を逆撫でて仕方なかった。
この、もやもやとした重い煙が、胸をちくちくと刺し続ける痛みが、忍を殺せば無くなるかもしれない。
感情に任せた結果、今茜の目の前で忍は燃えている。
膝を着いて、苦しみ悶える声を上げながら。
「はっ・・ははっ、ざまぁ・・ないね」
これでスッキリするはずなのに、茜は自分に言い聞かせる。
こんな奴がいたら、自分が、自分で無くなる。
「おい・・?なんとか、言ってみろよ?」
忍を中心に勢いを増す火炎を、茜は眺めた。次第に重なっていく、あの小屋と処女の姿。
遠くでは、燃えている忍のために水を集めたり走って来るアドニス復興隊がいるが、彼ら彼女らの声は、茜には届かなかった。
「・・なんで、こんなことに・・・」
気づいた時には、目から大粒の涙が溢れていた。
いつも通り、心をドライにしてみても、涙が止まらない。
「アタシだって・・好きで・・・こんな・・!」
家、友人、学校、世間。全てを嫌い、全てを嘲ってニヒルに生きてきた茜は、ハーベイの妹の死を境に、ようやく自分をかえりみていた。
いつからだろう、心の底から笑えなくなったのは。
いつからだろう、あんなことを始めたのは。
来なくていい明日が、必ず来る事に苛立ち始めたのは。
「忍っ!今助けるぞぉっ!」
近藤義雄たちが水の入った木のバケツを揺らしながら、緊迫した表情で走って来る。茜は、涙を拭って俯き、自分の顔があの人たちに見られないようにしながら、目の前で燃える忍に背を向ける。
「アタシは一人、アタシは一人・・」
ぼそぼそと、自分に言い聞かせるように呟いていた時だった。
「聞こえてるでぇ!?茜ぇっ!」
背後から勢いのある声がしたかと思うと、あの空気を震わせる爆発が轟く。
「言ったやろ?俺は、とにかく爆発させるって」
息を呑んで振り返ると、火傷を負いながらも笑顔を輝かせて両手に腰を当てる忍がいて、茜に対して陽気に笑った。
「アンタあれやな?隠す事が前に出過ぎて、逆に分かりやすいわ!身のこなしもええ感じやし、戦う発想もええ。ただ、隠す自分に正直過ぎるのは、どうかと思うけどな!?気に入ったで!」
彼が生きていて、笑っている様があまりにも現実離れしすぎていて、助けにきたアドニス復興隊は開いた口が塞がらず、茜はその場に座り込んでしまった。
「改めまして、俺は小野寺忍!よろしくな!茜!」
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