第16話 こんな能力でどうすんのよ!?
リゲル支部の裏はすぐ、街と外を隔てる柵になっていて、人が2人通れそうな幅の勝手口から、中にいた者が出て来る。
「ねぇ?茜ちゃん、あいつの異能・・かなりヤバいから。怪我だけはしないでね」
斎藤詩織の緊迫した表情から、彼女の言っている事が本当なのだろうと茜は理解するが、彼女も止まらない。
「はーい」
素っ気なく返して草原へと進む茜の背中を、アドニス復興隊の面々は不安げに見つめる。
「言わなくて・・いいんですか・・?忍の異能」
細々とした声色の新井佳代のもっともな意見に、他の者は口を結んで俯くことで応えるが、近藤義雄はそっと口を開く。
「言えないだろ・・俺らだって、まともに見た事ないんだから」
「あういうタイプが嘘をつくとも思えないけど、やっぱり異能が相手に知られるって、相当リスクあるからね」
街から大分離れた所で、腕を組んで仁王立ちしている小野寺忍は、明らかに自分に対して苛立つ茜が正面に立ってもその姿勢を崩さない。
「悪いなぁずいぶん歩かせて」
「うるさい」
「なんや準備してたらしいけど、何隠したんや?」
「・・・」
「いらん心配か・・お互い出し惜しみは無しやで?なんなら、殺す気で来い」
「言われなくても、てめぇの面ズタズタにしてやんよ」
猫背になって、素人なりに構える茜の強気な発言。
対して小野寺忍は、笑う事無く慣れた動作でムエタイの構えを取った。
草原と言えど、草しか無いわけではない。人の手が入っていない自然ゆえ、木や岩もいくつかある。茜は、それらを利用しようと、彼の元に行きながらそれらを自分の背後に来るように近づき、距離も取っていた。
「ほな、行くで」
瞬間、忍の足元で小さな爆発が発生した。
爆発の勢いを使って、茜との距離を風を切りながら一気に詰める。
「はやっ!?」
見た事の無い速さに驚いて近づいて来た彼を避けたが、何故か彼はそのまま進んで茜の背後にあった木に向かっている。
「よー見とれ!これが俺の異能や!」
拡声器でも使っているのかと思うような声量で唸り声を上げ、彼は木を殴った。
激しい爆発音が轟いた後、木は消し飛び、木の周りの地面が抉られていた。
離れていたのに、爆発音のせいで耳鳴りが止まらない茜は、言い知れぬ恐怖で体が震えてしまう。
「どうや!俺は、とにかく爆発させる事が出来るんや!」
それでも茜は恐怖を、それよりも強い感情で振り払って自分の頬をひっぱたく。
「んでぇ?こんなことも出来るで!」
右足を素早く上げて前蹴りをすると、また空気を震わす爆発が足先から発生して、勢いのある火炎と熱風が茜に襲い掛かる。
「てめぇよぉ!イラつくんだよ!」
横に大きく飛んで爆発を回避して、茜は素早く立ち上がって両手の甲を太ももに当てる。次の瞬間、彼女の手元には弓矢が握られていた。
「ええでええで!?掛かって来いやぁっ!」
「うるせぇっ!」
慣れない手つきではあるが、力いっぱい弦を引いて矢を射る。忍は怖気づきすらせずに、地面を前足で踏みつけて自分の正面に爆発を発生させて、茜の矢を吹き飛ばしていく。
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