第15話 やっぱ、怒るとロクな事ないわ

 アドニス復興隊リゲル支部の中は広く、吹き抜けの2階や使い込まれていると思われるテーブルや椅子、かつて受付だった場所はカウンターのみを残して本棚が置かれている。

 中には7人の男女がいて、テーブルに座って何かの紙を唸りながら見つめたり、壁に掛けられた武器の手入れをしたり、談笑したり、中には腕立て伏せをしている若者もいた。

 「みんなー!ちゅーもーく!」

 斎藤詩織の張りのある声に、一斉にこちらを向く。こんなことなら、先に風呂と替えの服を貰えば良かったなと、茜は軽く後悔した。

 「まだ入るか分からないけど、新しくアドニスに来た高橋茜さんよ!みんな、自己紹介してってね!」



 7人は各々のペースで立ち上がって、自己紹介を始める。

 「俺は、田中仁。異能は、体から雷を出せる」

 「私、新井佳代。異能は・・影の中に出入りできます」

 だが始まって間もなく、茜は眉間に皺を寄せる。

 「異能は、体や物を硬く出来る。剣だろうが岩だろうが効かないよ」

 「瞬間移動が」

 「はぁっ!?なにそれ!」

 突然大声を上げる茜に驚く一同。彼女は、自分が貰った異能と、この人たちが貰った異能の差に、我慢ならなかった。

 「アタシの異能、物を隠すだけなんだけど!?なに!雷!?影に入る!?果てには瞬間移動!?あの野郎・・次会ったら絶対許さない!」

 茶色いセミロングを揺らし、童顔を怒りに歪めながら勢いに任せて出た言葉の後、茜はハッと息を呑んで隣に立つ2人にそっと顔を向ける。

 「物を、隠す?でもさっきは、物を消したり出したりするだけって・・」

 「あっ、いや・・それはそのぉ・・・」



 はっきりとしない茜の態度に、徐々に沈黙が居心地の悪いものになっていく。

 この場にいる者達も、神から異能を渡されている。その時に、自分の精神に見合った異能を授けられている。これは、異能者の共通認識なのだが、物を隠すという異能から、高橋茜という人間の根っこが見えたような気がして、みんなが触れにくくなってしまった。

 「なんやなんや!?もうおしまいか!?」

 沈黙を破ったのは、先程まで腕立て伏せをしていた若者だった。

 金の短髪、服の上からでも分かる鍛えられた引き締まった体。



 「俺は、小野寺忍。オヤジの仕事でしばらく関西におったけど、元は関東人やから、エセ関西弁で悪いのぉ!」

 元気よく口を開き、楽しそうに話す。茜の周りにはあまりいなかったタイプに、彼女は無意識に体を仰け反らせるが、彼は止まらない。

 「んーであれやろ?えっと、茜が俺のパートナーになるんやったら裏行こっか?相棒の力量が分からんと、こっちも身動きとれんからな」

 「ちょっ」

 勝手に話を進める小野寺忍に驚くのは、何も茜だけでは無かった。

 「待ってくれよ忍。彼女、まだ入るって決めたわけじゃ」

 近藤義雄が彼を引き留めようとするが、忍は頭をぽりぽりとかいてまるで聞き入ろうとはしない。

 「るっさいのぉ・・俺かて、さっさと元の世界に帰らんと家族が心配してんのに、選り好みなんてしてられんわ」

 自分の思った事や意見をハッキリと言い渡す小野寺忍に、茜はふつふつと煮えたぎるような熱さを覚えて、彼にずんずん歩み寄る。

 「裏で?なにすんの?」

 「おーこわ」

 鋭い目つきを向ける茜に、忍は不敵な笑みを浮かべる。

 「互いの異能を見せ合う。いわば、試合や」

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