第14話 リゲルの街
結果として、嫌だった習い事や厳しいしつけのおかげで、大抵の事をこなせるようになった。
待っていたのは、出来ない人たちが押し付ける、出来る人の理想像。
押し付けられるだけで、その人たちは成長なんてする気も無かった。
2人に異能者との戦いにおいての差を思い知らされた茜は、口を尖らせながらリゲルの街へと連れて来られた。
以前の街とは違い、周囲に壁は無いが代わりに背が少し高い木の柵で囲まれていて、大通りと思われる場所は石畳みだが、枝道に入ると土の轍になっている。細々としながらも、人々には活気があり、牧歌的でのどかな場所。
大通りを歩いていると、店の主人や何人かの人が挨拶を交わしてくれて、アドニス復興隊と街の人との交流がちゃんと成り立ってるのだと思わせる。
「良い人たちよ、今の異能者は迫害されるか、自分から人を避けるか、どこかに雇われるか。なんにせよ、あまり自由な立ち位置にいないの」
急に現れてあれやこれやと言う2人に、茜は正直疲れていたが、斎藤詩織の言葉は何となく理解出来た。
「昔はなぁ、冒険者様ーとか言われて結構良い扱いされてたのにさ。まぁ、向こうからすれば、悪い異能者がいれば他もそうだと思わざるを得ないからな」
そうだとしても、まるで絵本の中の冒険者のような、少し薄汚くても機能性の高い恰好に、茜は自分よりもしっかりとした生活をしているのだとぼんやり考える。
大通りから枝道に入り少し進むと、踏み固められた土で出来た丸い広場の先に大きな木の建物が見えてきた。
「ここが、我らアドニス復興隊の本拠地!まぁ、昔ここに立ってた冒険者組合の建物を借りたんだけどね」
近藤義雄は手を大きく広げ、自信に目を輝かせて茜に建物を紹介した。彼の様子が可笑しかったのか、斎藤詩織は口に手を当ててくすくすと笑っている。
「本拠地じゃなくて、リゲル支部でしょ?」
「発祥はうちだぞ!?」
「だからって、あんなの立てて・・」
腕を組んで建物の屋根を見つめる斎藤詩織の視線を茜が追うと、のぼりが何本か立ち、元祖や本場などという文字がかなり太い字で書かれている。
「うさんくさぁ・・」
思わず口から出た本音に、茜はしまったと2人から後退るが、2人とも彼女の言葉を愉快そうに笑い飛ばす。
「でしょー?大体こういうのって、言ったもん勝ちだしさぁ?」
「言われてみれば、近所の焼きそば屋がそんなんやってたなぁ・・」
ひとしきり笑ってから、斎藤詩織は茜の顔を覗き込む。やんわりと甘い香りが漂ってきて、茜は何日も風呂に入っていない自分が恥ずかしくなって顔を逸らす。
「みんなに君を紹介させて欲しいの。もし空気が合わなそうなら、無理に入ってなんて言わないわ。それでも支部は他の街にもあったりするから、その時は頼って貰って大丈夫よ」
茜は恥ずかしさで熱くなった頭を、深呼吸して落ち着かせた。
ノチェロがかけた呪いは本当だった。あの痛みが更に増したら、自分は立つことも出来ずに苦しさに悶えながら死んでいただろう。
生きる上で、誰かと共に過ごすのは億劫だが、今は選り好みをしている場合でもなさそうだと、茜は彼女に向き合う。
「アタシは、高橋茜。異能は、物を消したり出したり出来る」
それでも、相手に自分を隠す事だけは、止められない。
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