第9話 ニュースが如く
街は大きな石の壁に囲まれていて、外に出るには両脇に立った鎧姿の兵士にじろりと見られながら通る。荷物や人相を鋭い目で見る彼らに混じって、ハーベイの姿もあった。
「よっ」
手の平を立てて、意気揚々と声を掛ける茜に、ハーベイは気味悪がって頬を引きつらせる。
「あ、あぁ・・機嫌良さそうだね?」
「そぉ?普通だけど」
ハーベイと共に門をくぐり、2人はしっかりした轍の上を進む。
踏み固められた土の道は人が5人横に並んでも平気な程幅があり、そこから先は豊かな緑が生い茂っている。更に先には林や森、丘や山など自然が視界いっぱいに広がっていた。
「あの橋の先を、左に曲がると奴の家がある」
しばらく進むと、川に掛けられた石の橋を指差すハーベイ。わざわざ足を止めてから指を差した彼を横目で見て、茜は心をドライにする。
「じゃ、お金ちゃんと払ってよね」
「えっ」
それだけ言ってさっさと歩き出す彼女を止めようと手を伸ばすが、肘を伸ばし切る前に腕を引っ込める。彼は元々、付いて行こうとはしていなかった。
夕日が照らす橋の上を歩く少女の背中を見つめていると、茜は得意げに髪を手の甲で撫でる。
ずいぶん余裕があるんだろうと、ぼんやり考えていた時、突然彼女の手の平に現れたリンゴを見て、ハーベイは息を呑んだ。
はっきりとした轍は細くなり、雑草も混じっていた。
ハーベイが言った場所を曲がると、そこは鬱蒼とした森の中で、今通っている道は恐らく、獣道という物だろうと茜は思っていた。
「こんなとこに住むとか・・正気じゃないっしょ・・・」
立ち止まって靴とズボンについた土埃を、嫌そうに眺めてから舌打ちをして更に進むと、確かに木の小屋がぽつんと建っていた。
ちょっとした広いスペースの端には、切り株があり、ここに住むために多少手を加えた様子が伝わって来る。シンプルに作られた木の小屋、3段ほどの階段を上がればすぐに玄関につく。
だが、小屋から聞こえる嬌声の意味が分かる者ならば、あの小屋には決して入らないだろう。
「ま、だろーね」
胸の中に広がる、粘っこくて冷たい感触が体を震わせる。
直ぐに茜は、気持ちを切り替えて、感触そのものを凍らせ、次第に温度すら持たなくなっていく。
「本日夕方頃・・」
茜は、足音をなるべく立てないように、だが自然に歩いて小屋の反対側に回る。
ベランダには窓があり、こちらもドアから中に入れるようだ。
熱さとなまめかしさを増す嬌声を聞きながら、茜は無表情のまま、地面に手の甲を当てる。
すると、彼女の手の平から、黄色いとろっとした液体が徐々に現れた。
「どこかの誰かが・・」
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