第7話 異能者の影

 裏路地は陽の光があまり差し込まず、影になっていた。

 今この場には、壁際に立たされた茜と、正面にいる青年のみ。



 「ちょっとアンタ・・変な事考えてんじゃ・・!」

 身の危険を感じて叫ぶ茜に対し、青年は深く頭を下げる。

 「ゴメン!急に乱暴して!」

 想像と違った展開に、きょとんとするしかない茜に、青年はそのまま続ける。

 「俺の名前はハーベイ、この街の自警団だ。君・・異能者なんだろ?」

 何の気無しに質問しただけで、すぐに異能者だと判断されて、こんな直接的な目に会うのかと、茜はやりづらさや面倒くささを感じて溜息をこぼす。

 「・・だったら?アンタも、アタシを殺す感じ?」

 だが、今の自分だってやられてばかりではないと茜は強気に出る。何をどうやってかは分からないが、物を消す事が出来るのだからと、胸の中で呟いて勇気を奮い立たせる。

 「え、なんでそんな事するのさ?」

 顔を上げて目を丸くするハーベイの反応に、行き場の無くなった奮い立たせた勇気がすんと鎮まる。

 「実は、俺の妹を助けて欲しいんだよ」

 「いもう・・と?」

 ハーベイは事の次第を語る。

 「この街から少し離れた森の中に、異能者が暮らしている小屋があるんだ。街に害を与えない事を条件にね。でも4日前、街に食料を買いに来たそいつが、俺の妹と一緒に歩いてて・・そのまま、帰って来ないんだ・・」

 沈痛な面持ちの彼の目から、涙が溢れてくる。



 「頼むよ・・俺じゃあ、この街の人じゃあ異能者を相手になんて出来ないんだ」

 先程ディーゼルに感じたものと、似たなにかが茜の胸中に湧き上がった。

 「・・いいけど」

 ぼそりと呟くと、ハーベイは表情を明るくさせて、またも涙をあふれさせる。そんな彼を見ていると、思わず出た言葉に、茜はもやもやとした気持ちを加えた。

 「でも、条件があるよ。アタシ、住むところも、あの銀色のお金みたいなやつも持ってないの。こんな状況で、はい分かりましたって人助けができるほど、余裕が無いわけ・・まぁ、分かるよね?」

 茜の加えた言葉に、ハーベイの顔が曇る。

 これでいい。

 清々しさにも似た、何だか落ち着くような気持が茜を包み込む。



 しばらく沈黙が続いた後、ハーベイは彼女に手招きして歩き出した。

 石畳の道を歩き、木と石を組み合わせた建物の並びを過ぎて、ハーベイと茜は少し広い広場にやって来た。

 周囲には石のベンチと中央には小さな噴水、広場を囲むように四角い建物が2つ建っているその場所は、静まり返っていた。

 「ここはかつて、異能者たちのために作った宿泊施設なんだ。今はもう、使われていないけど、住むならここで良いと思う。俺が上の人に掛け合うけど、たまに巡回には来るから、それはゴメンね」

 よく見れば建物は、何だかアパートのようにも見える。茜は、ひとまず住むところが見つかって、彼に気づかれないように胸を撫でおろす。

 「それと、お金は報酬として払わせてもらうよ。出来れば、今日中には妹を助けて欲しいから、今日助けてくれれば弾ませてもらうけど、明日以降は減らしていくからそのつもりで」

 落ち着くのも束の間、爽やかな顔立ちから告げられる冷淡な言葉に茜が驚きの声を上げるが、彼はさっさとその場を後にしてしまった。

 「・・・クソっ!」

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