第6話 へぇ?ヤバいじゃん・・

 石造りの大きな橋の上から、眼下に広がるのは中世を思わせる古風な建物が軒を連ねる街だった。大きな通りにいる人たちが歩いて元気よく誰かと話している様子が、離れた所からでも伝わって来る。

 後ろを振り返れば、これまた大きなお城。

 自分がいた場所、もう去った場所に後ろ髪惹かれる思いも無く、茜は顔に固まってこびりついた血を腕で拭って街へ行く。



 実際に通りに出れば、街の人たちの活気が肌を貫いて伝わってくるようで、茜は少しどきどきしていた。

 通りには様々な店が並び、商品を木の箱や机の上に並べて、うちのこれが美味しいと宣伝したり、この武器は安いですよと元気よく声を張っている。

 道行く人たちも、商品の事を聞いたり、銀色の硬貨を渡したり、どこもかしこも人の声で溢れていた。

 現代社会ではまず見る事の無い景色にたじろぎながらも、茜は観光気分で軽くステップを踏んで雑踏に紛れていく。



 「君!ちょっと待ちなさい!」

 しばらく歩いていると、危機感すら覚えるような声を張り上げて、1人の男が茜の元に、雑踏を分けながら走って来た。

 城の中で見た鎧とは違う、動き易そうな鎧を服の上から着ている爽やかな見た目の青年は、茜とさほど歳の差が無いようで、鎧の胸部分の緑色の紋章のような物が陽の光に当たって輝いている。

 また捕まるかもしれない。

 そう考えて逃げようとしたが、彼女なりに考えなおしてその場にとどまる。

 「君、どうしたのその怪我・・」

 心配そうに茜の顔を覗き込んでから、青年はポケットからハンカチを取り出す。

 「水の精霊よ・・」

 まるで大切な人と話すかのような、優しい呟きの後。何もないはずの空間に小さな水の塊が現れ、彼はその水でハンカチを軽く濡らした。

 「ちょっと、しみるかもしれないけど、我慢してね」

 「あ、はい・・?」



 濡れたハンカチで顔の血や、腕についた血を拭かれながら、茜はディーゼルの話を思い返していた。

 力や魔法とは違う、異能。

 映画などで見た魔法は、もっと派手な印象だったのもあって、茜は初めて見る魔法にあまり驚かずにすんなりと受け入れてしまった。

 「それ・・魔法ってやつですか?」

 間の抜けた声で聞いた瞬間、青年の手が止まった。

 「・・初めて、見たのかい?」

 ヤバい。そう思った時には青年は茜の腕を掴んでいた。

 「ちょっと、来てもらおうか」

 「は!?なんで?離せよっ!誰かぁ!誰かぁ!」

 強引に引っ張る青年に危機感を感じて、周囲を歩く人たちに助けを求めるが、皆して茜を軽く見るだけで素通りしていく。

 結局茜は、誰にも助けられずに、青年に連れられて人気の無い裏路地に連れてこられてしまった。

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