第4話 ろくでもない世界
皆が、私に普通以上を求めた。
両親、友人、教師。皆して、普通以下の私を認めなかった。
許してもくれない、受け入れてもくれなかった。
目の前で肩をいからせて、自分を睨みつけるディーゼルにも、茜は親や友人や教師と似た嫌な雰囲気を感じ取っていた。
「あれ・・?」
先程まで持っていたナイフとフォークを探して、テーブルや自分の服を見たりするがそれらしき物は見当たらない。
茜が渡された服は、ズボンとTシャツと上から羽織るシャツだけ。ポケットの中にも無い。
「どうしたんですか?早く・・してくれませんか?」
優し気な口調に見え隠れする、威圧的な雰囲気。
ディーゼルの異変を感じ取ったからか、部屋の外で鎧がぶつかりあう金属音が聞こえて来る。
どうにかしないと、何をされるか分からない。
「見せるのは・・良いですけど、外じゃないと危ないですよ?」
必死に不敵な笑みを向けて、自分が本当は異能を持っているのだと、相手に思わせようと試みる。
だがディーゼルは、剣の柄に置いた手を離そうとしないどころか、代わらず茜を鋭い目で見つめている。
互いの腹の内を探り合うような、重く居心地の悪い沈黙がしばらく流れる。
「・・なるほど」
軽い呆れ笑いを浮かべて、ディーゼルは柄から手を離した。
「それほど強力な異能だったんですね」
茜の胸中に張り詰められていた緊張の糸がほぐれて、思わず一歩後ろに下がる。
「ようやく分かってくれましたか・・」
「えぇ。それでは急かすようで悪いですが、早速外に行きましょうか」
鎧を着たディーゼルが自分の背後に行ってから、茜はしたり笑みを浮かべた。
後は、隙を見てこの場所から逃げればなんとかなる。
「そうですね!それでは」
茜が元気良く振り返った瞬間、彼女の顔面に手甲を嵌めたままの拳が見舞われた。
軽く吹き飛ばされた勢いで尻もちをつき、鼻や歯ぐきから血を流す茜は、何が起きたのか分からずに目を丸くして、自分を見下ろすディーゼルを見つめる。
「全く、これだから困る」
ゆっくりと鞘から両刃の剣を抜き、切っ先を茜に向ける。
「危険な異能だと?ノチェロが渡す異能にそんな類の物など無い。あれは伝説上、誠実の神と言われるだけで、実際は大した力の無い神だからな」
初めて見る、本物の剣。目の前に突き付けられるこれがどんな使い方をする物なのかなど、考えなくても本能で分かる。
「や・・やめて・・・」
手と足を使って後ろに下がっても、彼はゆっくりと詰め寄る。
「冥土の土産に教えてやろう。神は、自分の戦士が死んだら、代わりの戦士をまた呼ぶんだよ。今度は、クソ生意気なガキじゃなくて、分別のある人間に託すさ」
ディーゼルの口から告げられる、残酷な言葉。ようするに彼は今から、茜を間引いて次の戦士を呼んでもらおうとしている。
「・・けんな」
茜の体が震える。恐怖とは違う、煮えたぎって全身の血を沸騰させるような熱さが彼女の全身にみなぎる。
「ふざけんなぁっ!」
茜の心からの叫びに、全く興味が無いのか眉一つ動かさない。
そんな彼に、歯ぎしりをして、彼女は叫ぶ。
「てめぇら!何でもかんでも好き勝手に言いやがりやがって!そんな奴らのせいで!死ぬなんてまっぴらごめんだ!」
突き付けられた剣を、思いっきり平手打ちした瞬間だった。
「・・なにをした・・・?」
ディーゼルが持っていた剣が、まるで手品のように消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます