XXXII

 ちょっと怒っているのか、当たりがキツイ。


「しょうがないだろ。被害者は俺なんだよ。とりあえず、犬伏だけには、昨日のうちに連絡済みだったけどな」


「で、あれはどういう意味なの?」


「ああ、昨日から皐月さんが、家に住んでいるんだよ」


 俺がそう言うと、富山の表情が止まる。


「どうした? 時間が止まっているぞ」


「え? あ、うん……。ん? ちょっと待って? ——ええええええ⁉」


 富山は、頭を抱えながら叫んだ。


「そこまで驚くことないだろ。別に死んだとか、そういうわけじゃあるまいし……」


「大ありよ! それ、どういう事よ! 葵、あなた、この事、知っていたの⁉」


 振り返って、葵の方を見る。


「さっき、授業中に聞きました……。私もまさか、陣君が、そんな大胆な行動をとるとは、思いませんでしたけど……」


 葵は、俺を見下すように言う。


「違う違う、俺の両親と向こうの親が知り合いで、父親が海外出張に行くことになったから、親が勝手に預かっているだけだ。それに、家には栞が居るから、二人で住んでいるわけではない。それに俺が、大胆な事を出来る人間に見えるか?」


「見えないわね、だって、あんた、ヘタレだもん」


「見えません。でも、たまに変な行動をとりますし……」


 二人は、俺に対してのイメージが、なぜか、マイナスな部分しか見ていない。


「おい、そこまで言わなくてもいいだろ」


 もう、怒る気にもなれない。


「それにしても、まさか、攻略対象が、そう来るとは……。ある意味、攻略しやすくなったとはいえ、逆に言えば、近すぎる存在にもなり得たという事か……。葵とは、別のタイプのキャラだし、その上、今日みたいな絡みがあると、攻略するのにも時間の問題ね」


「俺からしてみれば、あんな絡み方は、今後、ないと願いたいね」


 本当にそれだけは勘弁してほしい。


「それは避けられないわね。命を取られる保証はないとは言い切れないけど、それに近い事はされるかもね。まぁ、あなたが普通の人間でなければ、死ぬことはないでしょう」


「物騒な事を言うなよ」


「それくらいの緊張感を持ちなさいってことよ」


 念を押して言われる俺は、富山の忠告をそこまで鵜呑みにしてはいない。


 二人は、いつも通りの席に座り、犬伏がやって来るのを三人で待つ。

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