XXXI

 だろうな。あそこまでいったのに、最初から止めなかったことを考えると、これも藤峰皐月を攻略する一部であるのだろう。


 そして、俺は葵の方を見るが、何事もなかったかのように、弁当を食べていた。


 今の状況では、俺に関わらない方が、彼女のためにもなるだろう。


 それからは、教室内が微妙な空気に包まれたまま、時間が過ぎていくだけだった。




 六限目・国語——


 俺は、授業を普通に受けながら、黒板に書かれた文字をノートに書き写す作業をしている。


 すると、小さく丸められた紙くずが、横から俺の机に飛んできた。


 隣を見ると、葵は黒板を見ながらノートを取っている。


 紙くずを広げると、こう書かれてあった。




【藤峰先輩とはどういう関係なのですか? お弁当を届けてくれるって、普通の関係ではないですよね? 昨日、何があったのですか? 怒らないので、簡単に述べてください——】




 少し怒っているような内容ではあるが、葵も彼女の事を知っている上での事だ。


 俺は、すぐに要らない紙を机の中から取り出して、メモ用紙くらいの小さなサイズに破き、葵の問いに答える。


 そして、そのまま丸めて、葵に投げた。


 それを読んだ葵は、小さなため息を漏らし、その後、何も言わずに授業に集中し始めた。


 授業が終わり、放課後になると、俺は荷物を整理して、誰かが近寄ってくる前に教室を後にした。


 すぐに文芸部の部室に向かうと、部室の扉を開け、中に入り、ようやく面倒な空気から一時的開放される。


「はぁ……。疲れた……」


 まだ、この部屋には、誰も来ていない。


 こんな事で、喧嘩絡みに会うと思うと、今後、どんな仕返しというか、いじめが来るのか分からない。早急に犬伏達と対策を立てたいところである。


 俺は自分の席に座ると、続いて、葵と富山が部屋に入ってくる。


「あら、今日の主役が誰よりも先に来ているなんて、珍しいわね」


 と、嫌味を言ってくる富山。


「それ、嫌味なのか? だったら、やめてくれ、こっちだって、イラついているんだよ」


 つい、俺は富山を睨みつける。


「冗談じゃないわよ。こっちだって、こんな事が起こるとは思っていなかったんだから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る