XXVII

 と、隣の席である葵が話しかけてきた。


「どうしたのですか? 朝から元気がないようですが……」


 心配してくる葵は、席に座りながら、俺に言った。


「あ、そう見える? まぁ、色々とあったんだよ。色々と……」


「そうなんですか。色々あったんですね。大変でしたね」


「そうなんだよ。今、現在進行形で大変なんだけどな……」


「なるほど。ん? それはどういう大変なのでしょうか? 色々とは?」


 あれ? 話が通じていたと思っていたけど、通じていなかったのね。誤魔化そうとは、思っていたけど……。


「あー、まぁ……その……それは今、言いにくいんだよな。ここだと……」


「そうなんですか。すみません。無理に言わなくてもいいですよ」


 葵は申し訳なさそうな顔をして、俺に言った。


「すまないな。ちょっと、ここで言うと、俺の命の危険が確実に危ないから」


「え⁉ い、命の危険ですか……。そんなに深刻な状況なんですね?」


 葵は驚いた後、今度は心配そうな表情で俺を見た。


 教室に設置してあるスピーカーから予鈴のチャイムが鳴り、生徒たちは、それぞれの席に座る。犬伏や富山も、教室に姿を現しているが、朝から俺に話しかけてこなかった。


 それから、普通に午前の授業を受け、何事もなく時間だけが過ぎていく。


 昼休みになり、ようやく、一日の半分が終わったと思うと、小さなため息が漏れた。


「あ、やばい……」


 俺はカバンの中を確かめたら、お昼に必要な忘れ物に気づいた。


「何かありましたか?」


 机の上に弁当箱を出した葵が、俺の独り言に耳を傾けながら訊いた。


「それが……弁当、忘れたんだよね」


「栞さんが、作ってくれる弁当の事ですか?」


「うん。まさか、今日に限って忘れるとは……。これも日ごろの行いかな……。ああ……財布がさみしくなる」


 ちょっと泣きそうになる俺は、カバンの中から財布を取り出した。お金を使うのはもったいないが、こればかりは仕方がない。


「ちょっと、売店に行ってくる……」


「あ、はい……」


 俺の後姿を見送る葵。俺は、財布の中身の小銭を数えながら教室を出ようとした。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ま、間に合ってよかった……」


 と、いきなり二組の教室の扉の前、詳しく述べると、俺の目の前に一人の少女が現れた。

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