XXVIII
「陣平君、忘れ物だよ」
と、左手には俺の弁当箱が入っていると思われる袋を皐月さんが、わざわざ、二年二組の教室に持ってきた。
「あ、ありがとう……ございます……」
お礼を言う俺は、後ろからクラスの痛い視線を受ける。
これはやばい……。確か、犬伏が、男女問わず、どの学年にも皐月さんのファンがいると言っていたな。これ、受け取った時点の俺は、今、後ろを振り返ったら、クラスメイト達は、どういう表情をしているのだろうか。
「陣平君、どうかしたの?」
ちょっと、焦る俺の様子を窺った皐月さんが、上目遣いするように覗き込んでくる。
「あ、いや……。何でもありませんよ。ありがとうございます」
「そう、それは良かった!」
皐月さんは、微笑みながら俺に言った。
すると、教室内がうるさくなる。
ああ、やっぱ、こうなるのかよ……。犬伏、富山、葵。誰でもいいから、誰か助けてくれ~。
俺は、今すぐにでも助け舟を求めたい気分である。
どうせ、この後、皐月さんがいなくなれば、クラスメイトから何か、質問攻めにあうのは確実だ。
と、思いきや、他のクラスの奴らもそれを目撃している。
「それじゃあ、私、戻るから。バイバイ」
「あ、はい。さようなら……」
そのまま、教室を過ぎ去っていく皐月さんの姿が見えなくなった後、俺は何事もなかったかのように自分の席に戻った。
はぁああああああああ!
俺のクラスでの立場が、どうも危うい。クラスメイトの視線が痛い。
そして、隣の席に座っている葵の様子がおかしい。
なぜか、ゴミを見る目で、俺には何も言わず、表情だけで語っている。
「葵さん? 顔、怖いですよ。ねぇ、いつもより数段、怖いんですが、怒っています⁉」
「………」
葵は返事をしない。そして、俺の頼みの綱である二人は、俺と目が合うと、すぐに視線を逸らす。
おい、お前ら、俺を助ける気、一つもないだろう。このまま、放課後まで無視し続けるつもりなのか? やめろ! ほら、話をしたことがないクラスメイトがこちらに近づいてくるんだが……。マジで、助けろよ……。
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