Ⅴ
どうやら、俺が起きるまで膝枕をしていてくれたらしい。
「確か、俺は……あの時、腹に穴をあけられたはずだ。それがどうして、治っているんだ?」
『だから言ったでしょ? あなたは普通の人間じゃないって。それに倍体は採取できたしね』
アリエスは、俺の骨から作っただろう指輪っぽいものを手にしていた。
「それが天使化の暴走を止めるための、俺の倍体か?」
『そうよ。これがあなたの骨で作った天使化の暴走を止めるための倍体。これによってあなたと葵は、霊的パスで繋がり、天使化を抑えるのよ』
アリエスは、俺に指輪を渡した。
「へぇ~、不思議だなぁ。こんなのが俺の骨からできたなんて。でも、どうやって、この形にしたんだ?」
『私の魔力によって、あなたの骨の形を変えたのよ。これが一番分かりやすいじゃない』
どうみても、これを女性に渡したら婚約指輪、いや、結婚指輪にしかみえない。
この天使、この状況、少し楽しんでいるだろ?
「アリエス、ありがとう。これを葵に渡せばいいんだろ?」
『そううまくいくかしら?』
「どういう事だ?」
アリエスの言葉に俺は反応する。
『あの子、真面目だから私の話を聞かないわよ。それをあなたの言葉を聞くと思う? 確かに私はあなたにそれを託した。でもね、私が協力できるのはここまで、後は、あなたに任せるわ。私の命も、葵の命も』
そう言うアリエスに、立ち上がった俺は、フッ、と笑みを浮かべる。
「ま、やれるところまではやってみるよ。迷惑かけたな」
『あら、あなたが私にお礼なんて初めてじゃない』
「そうだな。後は、葵の体を出来るだけ持たせておいてくれ」
『分かったわ。こちらも何とかしてみる』
俺は振り返らずに再び、光のある方へと潜り始めた。
あれからどれくらい時間が経ったのでしょうか。
この透き通った深海の中、私は、一人でこの世界に閉じこもっていた。
誰もいないこの世界は、ちょっぴり悲しい。だけど、なぜか、落ち着いていた。
光が射すこの深海は、明るく、私を暖かく覆っている。
『葵、そこにいるんだろ? 返事しろ⁉』
まただ、私を呼び掛ける声がする。この聞き覚えのある声は、あの人しかいない。
こんな私を好きになってくれた人。そして、私の大切な人の声だ。
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