Ⅵ
あの人は、私をこんな世界まで追いかけてきている。
私は決めた。確かに天使化の暴走を抑えるために、この関係を切って、私が犠牲になればいい。悲しむ人だっているけど、いない人の方が多い。
私は孤独に生きてきた。でも、今年の春、私の運命は変わった。
陣君を始め、天使のアリエス。犬伏さんや玲奈。少しずつ変わり始めた環境で、私は天使、アリエスを宿していた。
そして、告げられる天使の事実。私は、天使化の暴走を起こしたくはない。もし、抑えきれなくなったら、死者が多く出るのかもしれない。
そう考えると、日々日に怖くなっていく自分がいた。
『葵! 今、そこから出してやるから待っていろ!』
やはり幻聴ではない。どうして。なんで。本当だったら殺した方が早いのに。
「私はもういいんです。私には眩しすぎる世界です」
『何を言っているんだ⁉ そんなのお前に関係あるのか? 俺には分からねぇーな』
「関係ありますよ。私は、確かに希望を持っていたのかもしれません。でも、それを壊すのが怖いんです!」
『そうか。でも、あきらめる必要はないだろ? 俺は、まだ、これ一つもあきらめたつもりはない。確かに今、葵の体は、危うい状態にある。でも、それを俺は絶対に助ける!』
上を見上げると、光が反射した水面から何かがこちらに潜ってくる。
「見つけた! 葵、やっと見つけたぞ!」
そこには、きつそうにしながら笑っている陣君の姿があった。
空から降ってくる彼を見ながら、私はどうして、という顔をしていた。
陣君はどんどん、私の方に近づき、そして、私の前に立った。
「どうして、迎えに来たんですか⁉ わ、私は! もう、覚悟を決めたのですよ! なのに!」
私は、突然泣き出した。涙が流れる理由くらい分かっている。
嬉しいけど、なぜか、こみ上げてくる涙は止められない。
「どうしてって、そりゃあ、俺は葵を助けたいと思っているからな。もし、同じ境遇のやつがいたとしても、同じことをしているだろうよ、俺は……」
ちょっと頬を赤くした陣君は、視線を逸らして言った。
「そうですか。そうですよね。あなたはそういう人です。忘れていました」
零れた涙を手でふき取りながら、目元を赤くした私は、少し笑う。
私は、陣君の服についた血に目に留まる。
「あの、その血は一体どうしたのですか? 怪我、しているんですか?」
「ああ、これか? なんて説明すればいいかなぁ。色々とややこしくなるんだが……」
陣君は、頭を掻きながら、困った表情をする。
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