XXVI

 荷物を抱えたまま、葵をお姫様抱っこする。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 段々と呼吸する回数が速まっていき、過呼吸の域に達している。辛そうにしているのが、こちらまで伝わってくる。


 とにかく、この場所から一刻も早く離れなければいけない。


 すぐに外に出ると、この近くでこの時間、人があまりいない場所となると、近くの公園しかない。この時間は、子供たちや家族連れもいないはずだ。


 葵の周りから以前、見たことがある瘴気が出ている。


 やばいなぁ。これは早めに富山に対処してもらわないと……。


 さすがにこのタイミングでアリエスが出てきて、天使化の暴走化を留めてくれるのが、ベストだが、そう簡単にはいかないだろう。


 すぐに近くの公園にたどり着いた俺は、周囲に人がいないことを確認し、葵を公園のベンチで横に寝せる。


「葵、聞こえるか? 俺が誰だか分かるか? 水いるか?」


 葵に対して、聞こえるように話しかけるが、呼吸をどうにかしようと必死で、答える暇がない。さっきよりも状況が悪すぎる。


「坂田さん! 遅くなりました‼」


 遠くからこちらに走ってくる男女二人の姿が見える。


 犬伏と富山だ。どうやらようやく追いついたらしい。早くたどり着いて助かる。まだ、暴走化は、完全になっていない。これなら富山の力で止められるはずだ。


「すみません。少し遅くなりました。それで、辻中さんの容態はどうなんですか?」


「見ての通りだよ。瘴気がまた出ている。それに今までよりもやばそうだな」


 俺の話を聞いた犬伏は、葵の方に近づき、持っていたタブレットを見ながら、葵の容態を確認する。険しい表情を見せる犬伏は、確認を終えた後、結果を待つ俺と富山の方を振り返った。


「どうなんだ? 助かりそうか?」


「そうですね。これは前回の時よりも酷いですね。なぜ、急にマイナスになったのか、原因も分からないですし、富山さんの力を使っても、AIが計算した天使化の暴走は、確率で九七パーセント。ほぼ百パーセントに近いです。残念ながら、最悪の事態になりましたね」


「マジかよ……。何か対策とかないのか? このままだと、葵はどうなる⁉ ほっとくわけにはいかないだろ⁉」


 俺は声を上げて、犬伏に怒鳴った。犬伏に八つ当たりしても何の解決にもならない。


「まあまあ、落ち着いてください。最悪の状況のために一応、対策は練ってあるんですから。それに僕たちもこのまま未来に帰ることもできません。これは苦渋の決断なのですが、坂田さん、あなたの判断に任せます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る