XXVII

 そう、犬伏に言われた俺は、一体、なにをいいだすのかと思った。


「いいですか。今のままでは、確実に天使化の暴走は抑えられません。選択肢は二つです。どうにかして、天使化の暴走を止めるか、もしくは、彼女自身を殺すか。二つのうち一つです」


「え? ちょっと待て……。今、最後、なんて言った?」


 聞き間違えだろうか。犬伏の口から葵を殺すみたいな言い方をされたような。


「『殺す』って、言ったんですよ。さすがの僕でも言いたくはなかったのですが……」


 確かに『殺す』と言った。それも二度も。聞き間違えではない。


「おい! それはどういうことだ⁉ 何も殺すまではないだろう⁉ 葵は人間なんだぞ! 俺に人間を殺せって言いたいのか⁉」


 犬伏の胸倉を握り、睨みつける。


「人間……。確かに彼女は人間ですよ。人間ではありますが、人間ではない。世界を滅ぼすかもしれない天使です。皆のために一人の犠牲は当然でしょ? ですが、私は選択肢が二つと言ったはずですが?」


「ああ⁉ それは分かってる! その殺すって選択肢が気に喰わないんだよ‼」


 ここで争っている暇なんてない。俺は犬伏から手を離す。


「ごほっ、ごほっ……。では、もう一つの選択肢について話しましょう」


 そして、犬伏はもう一つ残された選択肢を説明する。


「なにっ⁉ そんな方法で行く気なのか? 正気か?」


「はい。もう、これしか手がありません。これは、僕たちは干渉できませんし、あなたに負担がかかるでしょう」


 そう言われて、俺は怖気づくとでも思ったのだろうか。確かにこれを聞けば、大半の人間は、殺した方がいいと思うだろう。それでも、俺は、彼女を殺すことができない。


 俺の覚悟は決まっている。たとえ、この身を捧げても彼女を助けると。


 殺す選択肢は、頭にない。


「分かった。俺がやる」

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