XIV
俺はぼさぼさの髪を掻きながら、部屋を出て、洗面所に向かった。
洗面所の方から水が流れる音がしている。同時に天井の明かりも点いており、どうやら俺よりも先に先客がいるらしい。
「誰だぁ? こんな朝早く、洗面所にいるのは?」
と、洗面所の中を覗くと、妹の栞が洗顔クリームを塗り、顔をきれいに洗っていた。
「あ、お兄ちゃん、おはよう。早いね。いつもより一時間早く起きてるよ。休日なのにどうしたの?」
タオルで濡れた顔を拭きながら聞いてくる。
「ん? ああ、ちょっとな。あ、そうそう。今日、出かけるから昼飯いらねぇーわ」
そう言いながら、俺は洗面所で寝癖直しのスプレーを髪に吹きかけ、櫛で髪を整える。その後、顔を洗い、栞が使ったタオルを借りて顔を拭いた。
「それはいいけど、お兄ちゃん。どこにいくの?」
「ええと、それは……。商業施設とかかな? 色々と見て回りたいところがあるし」
適当に答えると、栞は目をキラキラさせながら、こちらを見る。まるで、餌を待ちながら尻尾を振っている犬のようだ。
「ねぇ、だったら、私も連れてってよ!」
やっぱりこう来たか。適当に答えたつもりなのに、こうなった栞は面倒だ。
「あのなぁ、俺は遊ぶために外に出るんじゃないの。貴重な休日をお前のために時間を使ってやれるかってーの! それになぁ、行きたかったら一人で行けよな、一人で」
「別にいいじゃん! どうせ、お兄ちゃん、一人なんでしょ⁉ だったら、問題ないじゃない。それに、いつも家事を全てしている労働者に対して、お礼とかあってもいいんじゃないの?」
正論を言われると、なぜか言い返せない。だが、今回だけは違う。一人で出かけるわけではない。一人だったら、栞を連れて行かないわけではないが、今日はどうしても外せない用事がある。こればかりは、断らないといけないのだ。
「すまないな。今日だけはどうしてもだめなんだ。いくら栞のお願いでも、今日だけは絶対に連れていけない。今度の休みに連れて行ってやるから勘弁してくれ」
「えー、それって本当に言ってるの?」
「本当の本当。絶対に今度は一緒に連れて行ってやるからな。だから、頼む!」
俺は両手を合わせて、栞に対して頭を下げる。
すると、栞ははぁ、と小さくため息をついて、しょうがないなぁ、という顔をしながら、俺の方を見た。でも、なんで、俺は栞に対して、こんなに弁明をしなければならなかったのだろうか。まぁ、別にいいか。
「分かった。だったら、今度は連れて行ってもらうからね! でも、そんなに必死になるお兄ちゃんを見ていると、これは一人でお出かけではないようですなぁ」
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