Ⅸ
「あ、ああ……」
私は、坂田君にそう言い残して、萩原先生にトイレに行ってきますと伝えて、なんとかその場を離れた。
洗面台の上で吐きそうになりながら、鏡を見ると、そこには私と同じ顔の私が話しかけてきた。
『こうして、面と向かって話すのは、初めてだな。私は天使。あなたの中にいる天使よ』
「天使ですか……。天使というのは、私が知っている理論上の天使だと仮定してもよろしいのでしょうか? それとも違うのですか?」
私は、鏡に映る自分に話しかける。これを他人に見られれば、頭のおかしい人にしか思わないでしょう。すると、鏡に映る私は、ニヤッ、と笑い話を始める。
「天使とは、確かにこの時代では幸せの意味だと思っている奴はいる。だが、私は、違う。天使は、悪魔であり、少女の中にしか存在しない。私が存在している時点でそれが証拠ではないのか? 私はあなたの中で成長し、やがては、私はあなた自身になる」
「なるほど、なんとなく理解はしました。その天使さんが、なぜ、私の中で生まれたのですか?」
「うむ。それは私にも分からない。人間の少女を生贄に天使は蘇る。もし、あなたが私を抑えたいのであれば、それは無理だ。あなたの力では、私の力は、時期に抑えられなくなり、暴走し、この街ごと吹き飛ぶのだから」
この天使が言っていることは、信じられないが、明らかに嘘を言っているようには見えません。だとするなら、この天使をまた、抑え込むことができる力がどこかにあるのを彼女は隠しているのでしょう。これが夢で終わるのであれば、終わってほしい。
そして、もう一度、鏡を見ると、そこにはちょっと疲れた表情をした私が映っていた。
俺は辻中が帰って来るまで、周りで話をしているクラスメイトの声を聴きながら、小さな欠伸をした。ちょっと、辻中の様子がおかしかったのは事実であり、彼女の身に何が起きたのか、少し気になるところである。さて、どうしたものか、困ったものである。
「お待たせして申し訳ありません。ちょっと、長引いてしまいまして……」
と、後ろから辻中の声がした。
彼女は、そのまま席に座り、呼吸を整えながらゆっくりと落ち着いた様子を見せる。
どうやら、さっきの悪い予感は治まったらしい。ここで、何があったのか、訊いたら彼女に嫌がられるかもしれない。あえてここは、スルーすることにした。
「それで、図書委員の仕事はいつからになるんだ?」
「そうですね。一応、新入生が入学してから後日、学年全体の委員会の集会があるらしいです。それによって曜日ごとに、時間を決めるらしいですよ」
「へぇー、なるほど……」
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