どうやら、図書委員の本来の仕事が始まるのは、後日改めてとなっているらしい。


「辻中は、どんな本が好きなんだ?」


 一応、委員の話が終わった時点で、俺はさりげなく辻中との距離を縮めるために違う話を始めた。最初は、適当な話でもしておけば、何とかなるだろう。


「そうですね。ここ最近、読んでいる本は恋愛ものです」


 返ってきた言葉が意外だった。むしろ、推理小説とか、社会派小説などを読んでいるかと思っていた。


「そ、そうなんだ……。意外だな。結構、恋愛小説は読んだりするのか?」


「うーん、どうでしょうか。ここ最近ではまったばかりですし、男女の恋愛なんてどうなのか、私にもあまり分からないです」


「ふーん。恋愛ね。辻中は、どんな恋愛をしてみたいとか、願望はあるのか?」


「願望ですか……。特には……。あ、でも、好きな人をずっと好きでいられるような、そんな恋愛がしてみたいですね。私にできるかは分かりませんが……」


「なるほどね……」


 好きな人か……。こりゃあ、辻中に好かれるのは相当難しいんじゃないのか?


「坂田君は、どんな女性が好みなんですか?」


「え? あ、ああ……そうだな……。うーん、好みね……」


 急に聞かれた俺は、ちょっと悩んでしまった。確かにどんな女が好みなのか、俺も自分自身、知らなければ、今まで付き合ったこともない。身近で言うなら、妹だが、妹が恋愛対象なんて、そんなのこの日本、いや、この世の中、ありえないことだろう。


「俺の好みは……俺に合わせてくれるというか……俺の駄目なところも全て分かった上で、好きになってくれる女性かな?」


 そう答えた。嘘は言っていない。


 駄目なところも受け入れてくれる女がこの地球上にいたとしたら、それは素晴らしい事である。それに、辻中は、天使化を止めるための攻略対象でしかない。確かに見た目、性格は申し分ないし、彼女になったらそれはそれで勝ち組だろう。


「そうですね。坂田君は、そういう女性が好みなんですね」


「そうだな。ま、そんな女性と出会えたらいいけど、俺には無理だろうよ」


 微笑む辻中に対して、俺は苦笑いをする。


 辻中との二人の空間は、それなりに悪くはなかった。でも、時間が過ぎていくたびにその時間も終わりに近づくも同じである。


 俺は、この辻中の笑顔を守りたいし、辻中が普通の女の子として、高校生活を送ってほしいと願うばかりであった。願いとは、絶対叶うというわけではない。それまでの行いによっては、良い方向、悪い方向へと行ってしまうのだから。

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