Ⅷ
俺は辻中の方を見ながら、彼女に話しかけた。
シャーペンで名前を書こうとした辻中は、俺の方を見て、小さく首を縦に振る。
「ならよかった。俺、ここの図書委員の事、よく分からないんだが、辻中は、去年、何の委員会に入っていたんだ?」
「去年も図書委員です。主に図書委員は、図書室での当番が多いですね。後は、特に忙しい事はありませんし、大丈夫だとは思いますよ」
「そうか。それなら俺向きかもな。別に、本が嫌いって訳でもないし、部活にも入っていないからな。図書委員の仕事はやりやすいだろ」
俺は辻中とのコミュニケーションを深めていく。でも、そう簡単に好感度が上がるわけでもなく。徐々に上げていけばいいだろう。
「……」
辻中はそれを聞いて、微笑みを見せてくれる。その微笑みを見た俺は、ちょっと可愛いと思った。確かに彼女は美少女であるが、表情を表に出さない性格かもしれない。ここ短い時間を見て、そう思ったからだ。
だが、ちょっと辻中の様子がおかしい。笑みを浮かべる裏では、頬に汗がちょっと流れている。呼吸もちょっと荒くないかとも思う。
「どうかしたか? 何かきついのか?」
「ううん。何でもありませんよ。ちょっと、頭痛がしただけですので、大丈夫です」
「それならいいんだが……」
彼女の事が心配になった。
きつい……。さっきから体の中から何かが生まれそうで、体が焼き殺されそう。
でも、ここでみんなに心配をかけるわけにもいきませんし、倒れるわけにもいきません。
『早く楽になった方がいいんじゃない。私にその体を預けなさい』
まただ、頭の中に呼び掛けてくるのは誰? 誰なんですか?
少しずつ、視界もぼやけてくる。あと少しで授業が終わるのに……目の前にいる坂田君にも迷惑を掛けたくありません。ここは耐えなくては、大丈夫、今の私ならまだ、大丈夫です。
『私はあなた、あなたは私』
頭痛が少しずつ酷くなっていく。
(やめてください! これ以上、私に話しかけてこないでください!)
私は必死に抵抗して、体の内にいる誰かに言い返す。
もし、これが私の本性として、私自身を乗っ取られたらおしまいだ。だからと言って、このまま、思うがまま、操られるわけにはいかない。私は私なのだから。
「すみません、坂田君。ちょっと、トイレに行ってきますね」
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