99.見えない目的

「詰まる所、彼女に別におかしな点は見当たらなかったということですか?」

「ええ、そうなりますね……」

「ふむ……」


 エルーシャさんの言葉を受けて、ケルディス様はそのように結論を出した。

 確かに、私達の部下だった時のルミーネはいたって普通の人だったといえるだろう。その結論は、当然のものだ。

 しかし、それでは何の手がかりも得られていないということになる。それでは、結局困ったままなのだ。


「彼女の交友関係などをご存知ですか?」

「職場において、誰かと特別親しくしていたということはないと思います。少なくとも、私はそれを知りません」

「ご家族は?」

「本人は、天涯孤独だと言っていました」

「そうですか……」


 ケルディス様はさらに質問を重ねたが、重要な手掛かりとなるようなものは出て来なかった。

 話を聞けば聞く程、ルミーネの謎は深まっていく。彼女は、一体何者で、何を目的としているのだろうか。


「……今、僕は二通りのことを考えています」

「二通りのこと?」

「ええ、それはルミーナが何者かということに関してです。まず考えたのは、先程の通り彼女が猫を被っていたという可能性。もう一つは、彼女が何者かに操られているという可能性です」

「操られている可能性ですか……確かに、あり得ないことではありませんね」


 ケルディス様の言葉で、私はその可能性に初めて気づいた。

 よく考えてみれば、ルミーネが誰かに操られているかもしれないのだ。

 穏やかで真面目だった彼女を、悪人が操作している。それは、確かに否定できないものだ。


「ただ、後者のことは今考えても仕方ありません。彼女の裏に何者かが隠れていたとしても、私達にそれを見つけ出す手段はありませんから」

「それは……そうですね」

「ですから、ここは前者の可能性で考えてみたいと思います。彼女は、猫を被っていた。そして、ズウェール王国が滅びた時に、その本性を現したと」


 ケルディス様は、とりあえずルミーネ自身が主犯であるという前提で考えるようにしたようである。

 それは、賢明な判断だ。ルミーネのことですらわからないのに、彼女の裏にいる人物のことなんて、考えようがないだろう。


「そこで、彼女の目的として考えられることは、色々あります。ですが、最初に考えられるのは、第三王子グーゼスへの恨みなどでしょうか?」

「個人的な恨みで、彼をあんな姿に変えて弄んでいると?」

「ええ……ですが、その可能性は低いでしょうね。彼女は、彼を動かすことを実験と表していました。それはその先に何かを見据えての発言のように思えます」

「そうですね……」


 ケルディス様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。

 ルミーネにも少なからずグーゼス様に恨みはあったとは思うが、それ自体が目的であるとは考えにくい。

 わざわざ実験体に選んだのは、彼の以前の行いが理由だとは思うが、その先にさらなる何かがあるのは確かなことだろう。

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