92.危険があっても
「あまりこういうことは言いたくありませんが、僕達商人にも危険なことはあります。取り引きをする相手が、善人ばかりという訳ではないからです」
「それは……」
「危険などということは、いくらでもあるんです。商人だからといって、あまり侮らないでいただきたいんです」
スライグさんは、マルギアスさんにはっきりとそう宣言した。
考えてみれば、この場に来た時点で、スライグさんやセレリアさんは只者ではなかったのかもしれない。
友人がいるからといって、騎士団が護衛している秘密の場所に飛び込んでくるなんて、勇気がいるはずだ。それができている時点で、二人はそれなりの覚悟ができる人なのだろう。
「それに、僕達商人の情報網というのは、人から人への伝聞です。そう簡単に、そのルミーネという女性も僕達の元に辿り着けませんよ」
「……」
「……あなた達騎士団は、その鍛え上げられた肉体を使い、戦うのでしょう。それと同じように僕達商人は、そういう伝聞で戦うんです。それをあなたには、覚えていてもらいたい」
「……わかりました」
スライグさんの言葉に、マルギアスさんはゆっくりと頷いた。
その顔は、真剣だ。真っ直ぐに、スライグさんの目を見つめている。
恐らく、マルギアスさんには伝わったのだろう。商人達の戦いと覚悟が、わかったのだ。
「……確かに、私はあなた達のことを侮っていたかもしれませんね。すみませんでした」
「……いえ」
「今回の事件は、とても複雑です。この国にとって、由々しき事態といえるでしょう。その解決のために、あなた達ナルキアス商会の力を貸してください。騎士団を代表して、お願いします」
「ええ、もちろんです」
マルギアスさんは、ゆっくりとした動作で頭を下げた。
その動作は、とても丁寧だ。そこには、彼の敬意が現れている。
そんな彼に対して、スライグさんはしっかりと頷いた。
私は、二人のその様子に安心する。とりあえず、話がまとまってくれて良かったと。
「兄さんも騎士さんも、なんだか熱い人みたいですね……」
「え?」
「そ、そうですか?」
そこで、セレリアさんのそんな言葉が聞こえてきた。
その言葉に、スライグさんとマルギアスさんは少しだけ照れていた。
確かに、二人は結構熱い人である。それは、私もそう思う。
セレリアさんは、相変わらずのようだ。こういう時にいつも空気を変える一言を言ってくれるのはありがたい限りである。
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