50.つけてくる者

 トゥーリンの定食屋での仕事を終えて、私は家へと向かっていた。

 そんな帰り道、私は人の気配を感じていた。誰かに、つけられているような気がするのだ。

 その人物に、私は心当たりがある。恐らく、彼がつけてきているのだろう。


「ドルギアさん、いるんですか?」

「おっと、気づかれていたか」


 私が呼びかけると、物陰からドルギアさんが現れた。やはり、彼がつけてきていたようである。

 ばれたからなのか、彼は私の隣に並んできた。その表情は、いつも通り楽しそうである。


「よく気づいたな?」

「あまり、元聖女を舐めない方がいいと思いますよ」

「そうか……まあ、そうだよなぁ」


 私は元聖女である。人の気配を感じることなど、私にとっては造作もないことなのだ。


「それで、どうして私をつけていたんですか? やっぱり、監視とか?」

「監視か……まあ、確かにそういう風に見られるかもしれない。だが、これは護衛だ」

「護衛?」

「夜道を女性一人で歩くなんて危険だろう? 最近は、色々と物騒だからな」

「物騒? そうなんですか?」


 ドルギアさんの言葉に、私は少し疑問を覚えた。

 最近は物騒。そこに何か含みがあるような気がしたのだ。


「知らないのか? 最近、巷では辻斬りなるものが現れているらしいぞ」

「辻斬りですか……それは、確かに物騒ですね」


 私は、驚いていた。まさか、そんな物騒すぎる者が現れているとは、思っていなかったからだ。

 確かに、そんな人がいるというなら、夜道を一人で歩くのは危ないかもしれない。人通りはまだまばらにあるとはいえ、昼間より危険であることは間違いないだろう。


「でも、私なら大丈夫ですよ。辻斬りの一人や二人くらいになら、どうってことないと思います」

「ほう? 自身満々だな?」

「ええ、こう見えても元聖女ですから、それなりに強いんです」


 ただ、危ないというのは一般人の話である。私の場合は、色々と事情が違うだろう。

 辻斬りは確かに怖いが、いざとなれば制圧できる自信はある。例え相手が達人であったとしても、それは変わらないだろう。

 私には、人並み外れた魔法の才能がある。その才能が、この身を守ってくれると、私は確信しているのだ。


「確かに、お嬢ちゃんならそうなのかもしれない。だが、それでもどうなるかはわからない。実際にそんな狂人と対峙して、お嬢ちゃんがいつも通りに動けるとは限らないだろう?」

「それは、そうかもしれませんが……だからといって、私を隠れてつけていい理由には、ならないと思うんですけど」

「まあ、確かにそれはそうかもしれないな……」


 私の言葉に、ドルギアさんは楽しそうに笑っていた。

 この人は、ずっとこんな感じである。こちらとしては、あまり楽しくはないのだが。

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