46.待ち構える者達

 私は、トゥーリンの定食屋に向かっていた。

 スライグさんとセレリアさんと会ったおかげで、私はかなり元気になっていた。今日も一日頑張れそうだ。

 そう思っていた私の目に入ってきたのは、定食屋の前に立つ二人の男性だった。それは、ドルギアさんと彼の同僚らしい人である。


「……そういう感じか」


 私は、ゆっくりとため息を吐いた。どうやら、彼らは昨日の今日で行動を開始したようだ。

 とりあえず、私は周囲の様子を確認した。グランゼンの町は、普通に賑わっている。ここで滅多なことは、恐らく起こらないだろう。

 私は、覚悟を決めて一歩を踏み出した。あの二人に何を言われるかはわからないが、これを乗り越えなければどうしようもないので、行くしかないだろう。


「お二人とも、おはようございます。どうしたんですか? 店の前で?」

「あなたを待っていたのです」

「……そうですか」


 私の言葉に応えたのは、ドルギアさんの同僚の方だった。

 そういえば、彼の名前はまだ聞いていない。色々とあって、ドルギアさんにも聞けなかったのだ。

 だが、ここで彼の方が主導権を握っているということは、私にある事実を知らせてくれた。恐らく、彼の方がドルギアさんよりもえらい立場なのだろう。

 その立ち位置からも、それはわかる。ドルギアさんは、彼の後ろに仕えるように立っているのだ。


「ということは、例の件ということでしょうか?」

「ええ、そういうことになりますね」

「……私、これから仕事なんですけど」

「手短に済ませます。ここであなたに言いたいことは、そう多くありませんから」


 私に対して、ドルギアさんの同僚さんは笑みを浮かべていた。

 それは、表面的に見れば爽やかな笑みだ。しかし、私にはわかる。その裏には、何かがあると。


「王城に来ていただけませんか?」

「私、今から仕事だと言いましたよね?」

「おっと、言葉が足りませんでしたね。今度の休みに、王城に来てください」

「拒否権はないんですか?」

「もちろん、断ってもらっても構いません。ですが、それはあまり良くないかもしれませんよ」


 彼の言葉の意味は、もちろん理解できる。これは、断ってはならないものなのだろう。

 だが、ただで従うのは少々癪である。ここは、もう少し相手を叩いてみたい所だ。


「……おい!」

「え?」

「む……」

「おっ……」


 しかし、私の考えは一人の男性の大声で遮られた。

 その方向を向くと、ナーゼスさんがいる。どうやら、彼が店の戸を開き、私達の会話を遮ったようだ。

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