20.一つわかること

 私は、アルヴェルド王国のナルキアス家の屋敷にいる。

 ズウェール王国の現状は、よく理解した。しかし、それでも私は関係ないと思うことにした。

 サルドンさんは、そこで少し席を外した。なんでも、どうしてもやらなければならない仕事があるそうなのだ。

 私の今後を決めるのは、彼のその仕事が終わってかららしい。それまでは、ゆっくりしていていいようだ。


「……」

「……」

「……」


 そう言われたのだが、部屋の中には気まずい空気が流れていた。

 それはまず間違いなく、先程の話があったからだろう。スライグさんも、セレリアさんも、私に気を遣っているのだ。

 それは、そうだろう。あんな話の後に、何も気にせず話すなんて無理である。

 本来なら、私から話しを振るべきなのだろう。ただ、私自身も結構動揺しており、そんなことができる状態ではない。


「……ルルメアさん、一つよろしいでしょうか?」

「え? はい、なんですか?」


 その沈黙を破ったのは、スライグさんだった。

 彼は、真剣な顔をしている。その表情から、これから話すことが何か重要なことであることがわかる。


「僕は、聖女だとか国だとか、そういう大きなものことはよくわかりません。ただ、一つわかっているのは、あなたがいい人だということです」

「……そんなことはありません。私は、国を捨てて来たんですよ? そんな私がいい人だなんて……」

「いえ、僕はそう思っています。ここに来るまでの旅で、そう感じたのです。でも、今回のことはそんなあなたでも耐えられなかった。それ程に悲惨なことだったのだろうと僕はそう思いました。あなたは頑張った。自分を責める必要なんてない」


 スライグさんは、私の目を真っ直ぐに見つめてそう言ってきた。

 彼は、本当に自分の素直な気持ちを私に伝えてくれているのだろう。それは、その目を見ればわかる。

 彼は、何も知らない。しかし、それでも私の人なりから、そう言ってくれているのだ。

 それは、とてもありがたいことである。そう言ってくれる彼には、感謝の気持ちしかない。


「まったく、兄さんはいつもそんな感じよね……」

「セレリア、それはどういう意味だ?」

「……真っ直ぐということよ。それは、いいことだと思うわ。だって、私もルルメアさんに対する意見は同じだもの」

「な、なんだ……そういうことか」


 スライグさんに続いて、セレリアさんもそう言ってくれた。

 そんな二人を見ていて、私はあることを思った。そんなことを言ってくれる二人の方が、余程いい人なのではないだろうかと。

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