11.無駄遣いは
私は、スライグさんとセレリアさんとともにアルヴェルド王国に向かっていた。
馬車を乗り継いでズウェール王国内を進み、宿屋で一夜を明かして、今日も移動だ。中々、疲れる日程である。
「まあ、宿屋もただではありませんからね」
「そうですよね……」
もっとゆっくりと移動することは、できない訳ではない。ただ、そうするとお金がかかる。
私も二人も、それなりに裕福ではあるが、それでも何日も宿屋に泊まったりすることは避けたい。やはり、無駄な出費は控えたいのである。
「父がよく言っていることなのですが……どうしようもない事柄以外は、節約するべきです。意外なことかもしれませんが、僕達はケチなんです」
「ケチ……」
スライグさんは、私に対して笑ってみせた。
ケチというのは、悪いことではないだろう。派手に散財をするよりも、いいことであるはずだ。
「父も兄も、そういうことには色々とうるさいんです。私が欲しいものがあると言った時、それはどうして必要なのか、なんて聞いてくるんですよ?」
「それは……」
「例えば、服を買う時、まだ着られる服があるのだから、買う必要はないって、否定されるんです。ひどいと思いませんか?」
「えっと……」
そんなスライグさんや父親の態度に、セレリアさんは辟易としているようだ。
確かに、何か欲しい物がある時に、そのようなことを言われるのはとても嫌だろう。そう考えると、ケチというのは悪いことなのかもしれない。
「しかし、セレリア、服は父さんが言っていた通りじゃないのか?」
「あのね、兄さん。服というのは、流行があるのよ?」
「そんなことを言っていると、毎年服を買い足さなければならないじゃないか」
「ね? 面倒くさいでしょう?」
セレリアさんは、私に呆れたような笑みを向けてきた。
彼女の言う通り、スライグさんのこの主張はとても面倒である。もう少し柔軟になった方がいいのではないだろうか。
「ほら? ルルメアさんも、こんな風な表情をしているのよ?」
「ルルメアさん? あなたも、セレリア側の考えなのですか?」
「え? いや、それは……まあ、はい」
スライグさんの質問に、私はゆっくりと頷いた。それに対して、彼は驚いたような表情になる。
「無駄遣いは、駄目だとは思わないんですか?」
「まあ、無駄遣いは駄目だとは思います。ただ、流行の服を買うことは、無駄ではないのではないでしょうか?」
「……というと?」
「例えば人と会う時、その人が流行に敏感な人だったらどうでしょう? 流行の服を着ていたら、その人に好印象を抱かれると思いませんか? そうなると、今後の人間関係が上手くいくとは思いませんか?」
「む……それは……」
私の言葉に、スライグさんは少し怯んだ。納得できる部分が、あったということだろう。
それに対して、セレリアさんは笑みを浮かべる。それは、どこか勝ち誇ったような笑みだ。
「セレリア、なんだ? その笑みは?」
「別に、なんでもないわよ」
「まったく、お前は……」
スライグさんとセレリアさんは、そのようなやり取りをした。
こういうやり取りを見ていると思う。二人は、本当に仲が良い兄妹だと。
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