10.呪縛からの開放(モブ視点)

 エルーシャは、レイオスとともに第三王子のグーゼスの元に来ていた。自分達がやめることを、彼に伝えに来たのだ。


「やめるだって? はっ! 君達もか!」


 やめることを伝えた二人に対して、グーゼスは嘲笑うように顔を歪めた。彼のそんな表情は、日常茶飯事である。そのため、二人はそれに対して表情を変えることはない。


「あの愚かなる聖女にも言ったことだが、君達の代わりなんていくらでもいる。やめたければ、やめるがいいさ」

「……ルルメア様に、そのようなことを言ったのですか?」

「ああ、そうだ。それがどうしたというんだ?」


 グーゼスの言葉に、エルーシャは怒りを覚えていた。自分に対するものに関しては、彼女も受け流せた。だが、ルルメアのこととなると、許せないのである。

 エルーシャは、理解している。ルルメアがどれだけ素晴らしい人間だったか、聖女としてどれだけ優秀だったか、よく知っているのだ。

 それなのに、目の前の愚かなる王子はそれをまったく理解していない。それが、エルーシャには何よりも許せないのである。


「エルーシャ、やめろ」

「レイオス……」


 そんなエルーシャの肩に、レイオスは手を置いた。それは、彼女を制止するための手である。

 エルーシャは、それを払いのけようとした。だが、その前に気づく。彼の手に、力が込められていることを。


「あなた……」

「……」


 レイオスは、何も言わずエルーシャの目を見つめてきた。しかし、それだけで彼女は理解する。彼が怒っているということを。

 それでも、彼は踏み止まろうとしているのだ。ここで王子に怒りをぶつけても、いいことは起こらないとわかっているから。


「……王子、やめてもいいならやめさせてもらいます」

「ああ、好きにするがいい」

「……それでは、失礼します」


 レイオスは、極めて冷静にそう告げていた。その怒りを抑えながら、そう言い放ったのだ。

 そんな彼の気持ちを、エルーシャは汲むことにした。だから、レイオスについて王子の部屋から何も言わずに出て行く。


「……レイオス、ありがとう。私、一時の感情で愚かなことをする所だったわ」

「問題ない。お前がそういう奴であるということは、わかっている……それに、怒る理由は、俺にも理解できるからな」

「そう……そうよね」


 少し頭が冷えてエルーシャは、レイオスに感謝していた。

 あのまま怒りを爆発させて、何が起こっていたか。それは簡単に想像できる。そのため、レイオスには感謝するべきだと思ったのだ。


「さて、それでは行くとするか」

「ええ……長かったわね」

「ああ、随分と遠回りをしたものだ」


 二人は、そんな会話をしながら歩いていく。呪縛から解き放たれた開放感とともに。

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