5.誘いの理由
「セレリア、僕は別にナンパをしている訳じゃあ……」
「旅先で出会った女性に、一緒に旅をしようなんて、ナンパ以外の何物でもないと思うけど?」
「いや、それは……確かに」
セレリアと呼ばれた女性の言葉に、男性は頭を抱えていた。どうやら、彼は自分がしていることがナンパだとはまったく思っていなかったようだ。
ということは、下心なくあの提案をしていたということだろうか。それはそれで、なんというか少し複雑なような気もする。
「す、すみませんでした……いや、別にナンパをしようと思っていた訳では、ないのです。僕はただ、少し気になることがあったというだけで……」
「兄さん、見苦しいわよ?」
「そ、そんなことを言わないでくれ……」
男性は、私に対して平謝りしてきた。それに対して、セレリアさんは呆れたような顔をしている。兄のあまりの態度に、そんな表情になってしまったのだろう。
「すみません。情けない兄で……」
「い、いえ……」
「まあ、こんな人ですけど、一応辛うじて悪い人ではないというか、悪気はなかったというか……」
「あ、はい。それは、理解しています」
セレリアさんも、私に謝ってきた。彼女も、兄のことが嫌いという訳ではないのだろう。その謝罪から、それが読み取れる。
私も、彼のことはだんだんと理解できてきた。彼女の言う通り、悪い人という訳ではないのだろう。
「……というか、ナンパではないなら、どうして私を誘ったのですか?」
「え?」
「旅は道連れというようなことですか?」
「あ、その……」
私の質問に、男性は目をそらした。よくわからないが、それはあまり言いたくない理由であるようだ。
「……失礼かもしれませんが、少し思ったのです。このままあなたを一人にしておくと、いいことが起きないと」
「どういうことですか?」
「あなたは、とても落ち込んでいる。そうではありませんか?」
「それは……」
男性の言葉に、私は少し驚いていた。それを言い当てられるとは思っていなかったからだ。
しかし、考えてみれば、それは当然のことかもしれない。自分でも、そんなに元気ではないことはわかっているからだ。
「もしかしたら、あなたが大変なことをするかもしれない。そのように思ってしまったのです」
「そうですか……」
彼の言う大変なことが何かは理解できた。確かに、落ち込んでいる女性が国を移り住むと言っているという状況を考えると、そのように考えるのもそこまでおかしくないような気がする。
それで心配して、一緒に旅しないか誘った。そんな感じだったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます