第4話『猿梨学園伝奇部掌編集#1』
『部室』
「あっ、キョウくんお疲れさまー」
北校舎・部室棟にある「本来の」伝奇部部室の戸を開くと、既に室内には紗絵と双葉の姿があった。
色々と非常識だった部室棟に比べてそこは平凡な部室に見える。中央には会議机とパイプ椅子が設置されており、紗絵はそこにピンク色の弁当箱を広げていた。
扉の脇にはハンガーラックが、その奥には本棚とロッカー、そして窓際には一人用のベッドが置かれていた。室内の空気は若干埃の臭いが混じっている。こんなところで安眠できるのかとキョウは眉を顰めた。
彼は机の方に進むと、空いている椅子、ちょうど紗絵の正面辺りに腰かける。無造作にコンビニの袋を置くと、紗絵が箸を止めて微笑んだ。
「お昼食べに来てくれたんだ。部に馴染む意志が感じられるねぇ。感心感心」
「ああ、誰かさんが昨日押しかけて来たせいで教室に居づらくてな。昨日の爆発騒ぎも既に噂になってる。おかげでクラスに馴染む努力はパーになったよ」
彼は深くため息を吐きながら、袋から安物のホットドッグを取り出した。
対する紗絵は「あちゃー」などと呟きながら苦笑している。いったい誰のせいだと思っているのか。
「みんなこの部のこと誤解してるんだよ、きっと真面目に活動を続けて行けば偏見も薄れてくんじゃないかな」
「それは偏見と言えるのかしら……」
タブレットを眺めていた双葉も会話に割り込んできた。彼女は既に食事を済ませていたらしく、席の前にはファーストフード店の袋と、錠剤の包みが転がっている。
何か持病でもあるのだろうか、という考えがキョウの脳裏に浮かぶ。しかし、それはかなりプライベートな問題に思えて聞くことが憚られた。
代わりに彼は、前々から抱いていた疑問を口にした。
「そういや聞き忘れてたけど、結局この伝奇部って何の部活なんだ? 」
「なんだろうね」
紗絵のあっけらかんとした答えに、キョウは思わず噛みかけのソーセージをこぼしそうになる。
「なんで部長のお前が知らないんだよ。伝奇部って言うからには伝奇小説でも書くんじゃないのか? 」
「そんなのは聞いたことないなぁ。初代部長、つまり私のお父さんの代からアウトドア寄りの活動をしてきたはずだよ、うちは」
「世襲制なのかよここ……何か方針とかはないのかよ? 」
キョウはそう言いながら本棚の方に目を向けた。そこには部の活動記録らしき埃を被ったステーショナリーと漫画の単行本が並んでいる。
「創立当初の20年前は謎の蝶人間とそれが撒き散らす怪奇現象の調査、10年ほど前は矮人や子捨て沼の生態調査、ここ数年はこないだみたいな怪獣退治がメインね。色々手広くやっているけれど明確な方針と呼べるものはないわ」
補足するように双葉が口を開く。キョウの脳裏には「蝶人間ってなんだよ」という疑問が浮かんだが、あえて口にすることは無かった。UMAくらいなら、いくらでも居る土地だ、ここは。
「調査ねぇ、まぁ昔から怪獣退治みたいなことをやってきたってことか。だったら文化祭の時に調査レポートを出品すればいいだろ」
「やってるけど誰も読まなくてさ。みんな漫画部とか映画部の方に行っちゃうんだよね……」
流石に彼女も苦笑いしながら述懐する。
「よくそんな状態でしてやっていけるな。部としての対外的な成果くらい残ってないのか? 」
「特にないわね。元々は初代部長が女を連れ込む為に作った部だとか言われてるくらいだし。強いて言えばそこの子じゃないの、成果は」
双葉はフルーツのシロップ漬けを摘んでいる紗絵に視線を伸ばす。すると彼女は何故か誇らしげに大きな胸を張って見せた。
「言われてみればそうかもね、大成果じゃん! 」
「大問題だよ! 部活動を何だと思ってるんだお前らは……! 」
キョウはホットドッグの袋を握り潰しながら頭を抱える。
残念ながら伝奇部の実態は予想以上にロクでもないようだ。クラスメイトからの「偏見」は当分解消されそうに思えなかった。
***
『暗闘』
猿梨市民は地下に入る事を嫌う。
特に下水道に入りたいなどと言う者は皆無だ。生態系の狂ったこの街において、水辺は怪獣が身を隠す危険地帯。そんな場所を一人でうろつく者がいるとすれば、よほどの命知らずか、あるいは頭がおかしいかのどちらかと言える。
だが虎尾伊吹は前者でも後者でもない。彼女にはこの地の底を歩く明確な理由があるし、そもそも殆どの怪獣は彼女にとって脅威にならないからだ。
「やっと見つけたよ、今度こそ逃がさない……!」
伊吹の瞳は薄汚いT字路の壁に背中を預ける怪獣の姿を捉えていた。背部から無数に伸びた棘、長い首と胴体に比べて貧弱そうな脚、そして全身を覆う病的なまでの赤。それは北部モノレール駅前を襲撃し、生徒会によって“レミューバ”という暫定認識名称を与えられた怪獣に他ならない。
その身体は先日戦った時よりも明らかに小さく、成人男性より一回り大きい程度にしか見えなかった。しかし、伊吹は驚かない。相手が“なりそこない”である以上、その程度は想定の範囲内だ。
レミューバは右側だけ残った眼球で伊吹を捉えると、口元から体液を垂らしながら立ち上がった。胸元には未だ傷痕が残り、尻尾も再生していない。しかし、その腹部は歪な形に膨らみ、辺りには学園指定のYシャツと思しき布切れが散らばっていた。
「面倒だな」と呟きながら伊吹は身構える。餌食の消化を終えればあの傷も治癒し始めるだろう。時間を与えるわけにはいかない。彼女は少し身を屈めると、次の瞬間にはレミューバの足下に踏み込んでいた。虚を突かれた怪物は間の抜けた人形のように口を開く。その歯に挟まった腐肉から漂う刺激臭に不快感を覚えながらも、伊吹は右腕を振り下ろす。
彼女の手首から伸びた刃が、以前与えた傷口を抉るような軌道でレミューバの胸元を切り裂いた。同時に赤い飛沫が噴き出し、コンクリートの壁面を彩る。だが、伊吹は内心「浅い」と直感する。血の詰まった臓腑に触れた手ごたえがなかった。この程度では相手の息の根を止めるには至らない。
彼女の想像通り、レミューバは一瞬怯んだもののすぐ態勢を立て直し、胴から生えた頼りない左腕、その先端から生えた鉤爪を振り回す。伊吹が身を逸らすと、それは頬の側を通り過ぎて行った。子供のパンチのように無思慮な攻撃だ。彼女にとってかわすことは容易かった。
しかし、レミューバが右腕を振り上げると、その表皮に無数のミミズのような血管が浮き上がり、肉の千切れるような音が周囲に響いた。同時にその腕はまるで風船が膨らむように肥大化を始める。
それが意味する事を察知した伊吹は、咄嗟に顔の前で両腕を交差した防御態勢を取る。直後、巨大化していたときと同じくらいのサイズにまで膨らんだ怪物の右腕が伊吹に向かって振り下ろされた。人間一人など簡単に圧し潰せる程の一撃。レミューバの喉から「くけけ」と嗤うような鳴き声が漏れる。
伊吹はレミューバの右腕が直撃する寸前、交差した両腕を勢いよく開いて、攻撃の軌道を逸らした。彼女の身体を引き裂くはずだった鉤爪はあらぬ方向へ逸れ、T字路の壁面へ突き刺さる。ちょうど下水道に沿うような形で地下空洞があったのだろう。壁には黒々とした巨大な穴が穿たれた。
流石に全ての衝撃を逃す事は出来ず、彼女の履くブーツの足下にはその激しさを示す亀裂が走る。だが伊吹の脚はバネのようにそれを受け止め、そして解き放つかのようにバック宙を繰り出した。彼女の腿から足首の肉が弾け、白い刃が飛び出すとともに三日月のような残影がその場の空間を薙ぐ。
再び、レミューバの胸元から鮮血が噴き出した。同時に水の詰まったサンドバックが落ちたかのように重々しい音が下水道内に響く。その巨大化した右腕は文字通り一蹴され、根元から切断されていた。必殺の一撃を防がれ、更なる深手を負ったレミューバは喘ぎを漏らす。一方、怪物の眼前に着地した伊吹は、既に右手首からも刃を出し、追撃態勢に入っていた。
「今度こそ……!」
彼女は決意を込めて拳を握り固めた。間合いは十分だ。仕留め損なう事は無い……そう思えた。
だがその時、両者の足下を一匹の鼠が走り抜けていった。
いや、一匹だけではない。T字路の前方から、側面から、そして後方からも、大小さまざまな鼠が湧き出て来た。鉄砲水と見紛う膨大な数の群れに伊吹は突撃のチャンスを失う。そしてレミューバの姿と気配は、それに押し流されるように遠ざかっていく。
「クソネズミ……! また邪魔を! 」
伊吹の苛立った声が、暗渠の壁に虚しく響く。しかしそれも夥しい数の足音と鳴き声にかき消され、呑み込まれていった。
***
『風紀委員』
「あなた達、自分が何をしたのか分かっているのですか! 」
鈴のように可憐な、しかし凛とした怒声が室内に響き渡り、キョウは思わず肩をすくめる。
それを発したのはキョウよりもだいぶ背の低い、まだ小等部の生徒に見えるほど幼い外見の少女だった。
薄紅色の和装を身に纏い、瑞々しい黒髪に菖蒲の髪飾りを付けた姿は、まるで日本人形のようだ。その表情に激しい怒りが浮かんでいなければ、思わず頬が緩むほどの可愛らしさだっただろう。
しかし、ここはは風紀委員会、北部分室。
「風紀」の腕章を肩に巻き、身の丈に合わないほど大きいデスクに腰かけた彼女が、ただの女の子であるはずも無かった。
華流あやめ……風紀委員であり若干12歳で北部エリア室長を務める少女は、改めてキョウたちに口を開く。
「昨日の爆発で5件の家屋が被害を受け、飛散したガラスでケガをした生徒もいます。その結果をどう受け止めているんですか」
「だから、あれは自然現象だってば。私たちのせいじゃないよ」
傍に立つ鎌口紗絵は、いつも通りのんびりとした口調で弁解する。
「自然現象ですって……? 貴方たち伝奇部は何かする度に学園の施設を壊しているじゃないですか。にわかには信じられませんね」
「怪獣化したキノコが爆発したときに、ちょうど私たちが近くにいただけ、ほっといてもいつかはああなってたよ」
紗絵はそう言いながらキョウの方に目配せする。
「そうだよね、キョウくん? 」
もちろん嘘だ。紗絵が地下の爆発キノコ、ハゼフスベを爆発させたのは明らかに意図的だった。そして怪獣を撃退できるという確信を持っていた以上、地上がどの程度の被害を受けるかも想定していたに違いない。
彼女の口元には無邪気そうな微笑が浮かんでいるが、とんでもない面の皮の厚さだ。キョウは改めてその邪悪さに驚きの念を抱く。同時に彼女を止める事が出来なかった自らの無力さにも胸が痛んだ。
ただし、彼には紗絵を告発するつもりも無かった。
紗絵がああしていなければ二人とも怪獣の胃袋に収まっていたのは間違いない。それに彼女たちには大きな「借り」がある。またそれを持ち出されたらたまったものではない。それ故、キョウに出来る事は沈黙。何も答えず、機械のように頷く事だけだった。
「あくまで怪獣のせい、ということですか。そう言われてしまえばどうしようもないのは事実ですが」
あやめは沈痛な面持ちでため息を吐く。いつもこんなやりとりが繰り広げられているのだろうかと思うと、キョウは心底同情した。
一方、紗絵の顔には、勝ち誇ったような微笑が浮かぶ。
「じゃ、もう帰って良いよね? まだキョウくんに教えなきゃならない事もあるし、うちも忙しいから……」
彼女はそう言いながら既にドアの方へ歩みかけていたが、「待ちなさい!」という鋭い声がそれを食い止めた。
「他の生徒たちの手前もあります。お咎め無しというわけにはいきません」
あやめはデスクの引き出しからファイリングされた書類を取り出すと、苦々しい表情で紗絵の方に突き出す。
「伝奇部には仕事をお任せします。これを以って処分の代わりとしましょう。もちろん報酬は出せませんが」
紗絵は「えーっ」と不満の声を漏らしかけたが、あやめがデスク傍に立てかけた薙刀の方に手を伸ばすとすぐに口を閉じた。部屋の壁にはあやめの名が載った武道大会の賞状が多数飾られている。賢明な判断と言えるだろう。
「我々の予算は限られていますし、部には学園に貢献する義務があるはず、このくらいの奉仕活動は当然です」
そう言うとあやめはキョウの方にも瞳を向けた。
「あなたも、多少なりとも責任を感じているのでしたら真面目に活動に取り組んでください。良いですね?」
全てを見透かすような視線を浴びたキョウは、やはり黙って頷く事しか出来なかった。
***
『朝食』
昨日はとんでもない一日だった。
キョウはそんな事を考えながら身を起こした。カーテンの隙間からは薄い夜明けの光が差し込み、デジタル時計は午前6時前を指している。フローリングに毛布一枚で寝ていたので身体の節々が痛む。正直まだ休みたい気分だが、今抱えている厄介事を早々に片付けなければ、面倒が起きるのは確実だ。キョウは意を決し、ベッドに向けて声をかけた。
「伊吹……さん、もう朝ですよ。起きてください」
本来キョウのものである寝床には、栗毛色の髪を持つ少女がまどろんでいた。彼女の長い耳が一瞬、ぴくりと反応して動いたように見えたものの、すぐに力尽きたように横たわる。瞼を開く気配はない。揺さぶって起こそうかと考えたものの、その身体に触れることが憚られて諦めた。昨日、男物とはいえパジャマを貸していて正解だったと思う。そうでなければ姿を眺める事すら際どい状況だったはずだ。
立ち上がったキョウは自室を出て、キッチンやトイレ、風呂場を備えた共用部に向かう。ここは本来、男子生徒二人一組で暮らす学生寮なのだが、隣の個室は空き部屋だ。そうでなければ女の子を連れ込むことなど出来るものか。
用を足して顔を洗った後、彼は朝食を作り始めた。バターロールをレンジに放り込み、卵を多めに割ってボウルで溶く。フライパンにゴマ油を張って熱すると、ソーセージをやはり多めに投入する。香しい匂いが室内に広がった。
伊吹と再会したのは、昨日の夕暮れ時だった。
年下の風紀委員からみっちりとお説教を受け、押し付けられた仕事の下見で廃線跡に向かい、サルナシバイソンの群れに追い回された帰り道。
彼女は遊歩道の脇にあるベンチで俯いていた。付近のマンホールからは水の跡が点々と残っており、纏っているネイビーブルーの防刃ジャケットには血の跡と思しき染みがこびりついている。その表情は薄闇に紛れてよく見えない。
「あの……大丈夫、ですか」
思わず声をかけていた。もちろんナンパ目的ではない。純粋に身を案じてのものだ。彼女には先日命を救われた恩もある。もし怪我でもしているなら保健委員を呼ぶつもりだった。
「あまり大丈夫じゃない……お腹空いた」
彼女は顔を上げてキョウの方を見ると、不機嫌そうに答えた。
その後、キョウは彼女を自室に連れ込む羽目になった。猿梨市の飲食店は日が落ちるとすぐに店を畳んでしまうし、血まみれのまま開いている店を探すのも憚られた。彼女に恩を返すには、食事を奢るにはこうするほかなかったのだ。実際、一晩を共にしたが、指一つ触れることはなかったじゃないか。
頭の中で自分に向けてそんな言い訳をしていると、背後のドアが開く音がした。
「おはよう」
伊吹がボサボサになった髪を指で整えながら現れた。小鼻がひくひくと動いているのが見える。肉の匂いを嗅ぎつけて目を覚ましたのだろうか。
「ああ、おはよう。少し待ってください。もう朝ごはん出来るんで」
キョウはフライパンに溶き卵を流し込んでかき混ぜ、不格好なオムレツを仕上げた。それを皿に盛りつけてダイニングテーブルに置くと、伊吹は礼も言わず貪り始める。昨日の夕食で分かっていた事だが、遠慮と言うものはないらしい。
それは構わなかったが、キョウには昨夜からどうしてもひとこと言っておきたい事があった。自分のぶんのオムレツとバターロールを皿に置くと、キョウは彼女の前に座って口を開く。
「あの、俺が言うのもなんですが、奢ってもらえるからって男に着いて行くのはやめた方が良いですよ。その、危ないですから」
「別に、危なくないよ」
彼女は箸を止め、少し眉を潜めてキョウの瞳を見つめた。
「それとも、何かひどい事するつもりなの? キョウくんは」
「いや、俺は、そんな……」
その視線の前に、キョウは彼女に何を言うつもりだったのか思い出せなくなった。
紡ぐべき言葉を求めて悪戦苦闘している間にも、伊吹はじっと彼の瞳を見つめ続けていた。意味も無く頬が熱を持つのを感じる。
彼女は自分をどう思っているのだろう、とキョウは自問する。この一晩の交流で早くも信頼されたのか、あるいはそんな度胸は無いと見られているのか。あるいは、男との同衾など彼女にとって大事ではないのか。
「しない……と言うか、出来ませんよ。そんな事」
やがて、キョウは視線を逸らしながらそう答えた。自分の意志を含まない、ある種の「逃げ」とも言える答えだが、事実でもあった。彼女は大型怪獣を児戯のごとく叩きのめす力を持っている。「ひどい事」などしようものなら、八つ裂きにされるのはキョウの方だろう。
「そう」と、伊吹は短く答える。
何故か、その声音には不機嫌さと、諦めのようなものが混じっているように思えた。
二人はしばらく、そのまま視線を交わしていたが、やがて会話が終わったと判断したのか、伊吹はまたオムレツを貪り始める。
気まずい雰囲気の中、キョウは味気ないバターロールを口に突っ込むほかなかった。
「じゃ、またね」
20分ほど後、伊吹はそう言い残してキョウの部屋を出た。
朝日に照らされた街の中、彼女は腰まで伸びた髪を尻尾のように揺らしながら未開発地区の方へ歩み去っていく。
「またね、か。もうお泊りは勘弁してくれ……」
寮の前でその姿を見送ったキョウは、そう呟きながら伸びをする。
結局、彼女には振り回されっぱなしだった。いや彼女だけではない。紗絵と出会ってからここ数日、女どもには振り回され続けている。
しかし、今日もまた新しい一日が始まる。過ぎた過去は忘れて前を向かなければ。
彼は頭の中でそう決意しながら、登校準備のため自室へ戻ろうとした。
「へぇ、お泊りですか。それは興味深いですね」
その時、背後から聞き覚えのある可愛らしい声が響いた。振り向くと、そこには薄紅色の和装に身を包み、風紀の腕章を巻いた少女が立っている。
「し、室長さん……だいぶお早いんですね……」
「ええ、早起きは三文の得ですから。それに、鍛錬がてらパトロールしていると、今朝のように不届き者を発見出来たりもしますからね」
そう言う彼女の口元には笑みが浮かんでいるが、眉間に深い皺が刻まれている。どう考えても良くない兆候だ。
「とりあえず、詳しくお話を聞かせてもらいましょうか。分室の方で」
どうやら、今日もとんでもない一日になるらしい。そんな予感を覚えながらキョウは項垂れた。
(END)
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