第14話 終章

 本部に戻る船の中で部下が上司に聞いた。


「葵と凛はどうなるのですか?」


「異星人がいなくなったので、取り合えず村に転送する。凛はそれでいいが、葵はその世界で死ななければ元の世界には戻れない。それは葵に後で告知する」


「その前に、葵を転生させたのは先輩ですか?」


「そうだ、村が襲われ、葵が殺されて父親が殺される寸前だった。このままゲームが進むと将軍が勝ち歴史が変わる事になる。それは避けなければならない。私は色々な時空を捜した。そして年齢、体つき、顔が同じの葵を見つけたが、ストーカーに襲われ絶命寸前だった。その時の時間を一時間戻すことを約束して転生させた」


「葵は先輩と異星人と両方の声が聞こえていたのですか?」


「そうだ、頭が良い子で聞き分けていた」


「異星人は葵が転生したと気が付かなかったのですか?」


「異星人はその場の状況は見ていない。襲撃が失敗して、葵が異国に行く事だけを確認した」


「ストーカーに襲われた時間を一時間戻しただけで葵は大丈夫でしょうか?」


「さあ、それは分からない、運命だから」

と言って葵と凛を転送した。


 朝、鳥の声で目を覚ました葵は、いつも背中に抱きついて寝ているアイラがいない事に気が付いた。葵は不安になり捜したがいなかった。朝食の支度をしていた凛の側に行きアイラの事を聞こうとした時、二人とも意識が薄くなり、その場から消えた。


それは運命のように葵と凛は村の祭り場に転送されていた。


着ているものが部族の服から、上依と袴に変わっていた。


反政府騒動で凛の村の祭り場に仮の兵舎が出来ていた。そこには銃を持った兵隊が数十人が隊列を組んでいた。


兵隊達は急に現れた二人に驚いたようだが、銃を構えて、凛が拘束された。


「如何して、凛を拘束するのですか?」


「この者は県都の呉服店で、県の偉い役人の部下を二人切り殺した。そして政府転覆を謀った」


「えっ、斬り合っただけでは?」


「ごめんなさい。葵さんに嫌われたくなくて、嘘を言いました。でも切り掛かってきたので、刀を奪い、夢中で斬ってしまいました」凛は俯きながら話した。


「で凛を如何するのですか?」


「県都に連れて行き、裁判にかける」と言い兵隊は凛を連行していった。


葵は村の家に帰った。父親はもう戻って来ないと思っていたらしく、葵を見て驚いていた。


凛の件を聞くと暗い顔をして話し始めた。

「凛は奉公に行った時から、あの臭いで男達が廻りに集まって来た。凛には悪気が無かったが、中に反政府の人間がいて、思想を共用させ武装した。そして政府軍と争い、負けて、凛は逃走した」


「役人から妾になれと言われたのは嘘ですか?」


「妾の話は本当だ。役人の部下を殺した後にその男に利用された」


「凛は如何なるのですか?」


「多分、首謀者で死刑だ」


「そんな!」葵は落胆した。


そして、葵は自分が別の世界から転生して、本物の葵は亡くなっている事を伝えた。


父親は知っていたと答えた。そして元の世界に帰るように言った。


葵は頭の中に聞いた。

(元の世界に戻る方法は?)

(この世界から貴方が消える事です。つまり死ぬ事です)


暫くして裁判の結果が分かった。


反政府運動の首謀者、凛は二人の警官を殺害し、政府転覆を企み、戦闘を起こし、数人の兵士も死亡させたので公開処刑の銃殺とする。


共謀者の男は戦闘で死んでいた。


葵は決心して、刑の執行の前日に県都に向かった。


死刑執行の朝、葵は刑場にいた。


高さ二メートル程の板の塀で囲われていた。板の間は空いていて中は見えていた。


入口部分は広く開いていた。その先に角材が埋められ立っていた。


興味本位で集まった野次馬が大勢いた。


暫くすると馬に乗った隊長と徒歩の兵隊十人程が列を組んで行進して来た。


凛が後ろ手に縛られ白い服で兵隊達の中央にいた。


兵の一団は刑場の中に入り、凛は角材に縛り付けられた。


葵は刀の下部分を袴の中に入れ、上部は抱えて隠して、何時でも切り込んでいける体勢をとっていた。


凛は廻りを見渡して、葵を見つけると、微笑んだ。


野次馬達は凛を見て口ぐちに叫んでいた。


「若くて可愛い子なのに、可哀そう」

「何かの間違いだろう、止めろ!」


凛は目隠しをされるまで、葵を見つめていた。その目は何かを言いたそうだった。


隊長の笛で兵は五名ずつ、前後二列になり凛に銃を向けた。


「かまえ!」と隊長の言葉で葵は刀を抜いて入口から走り込んだ。


「撃て!」の声で兵隊は一斉に射撃した。


凛の体に銃弾が当たり、血が吹き出ていた。


「間に合わなかった」葵は倍の力が出ないことに気が付いた。


隊長が拳銃を自分に向けて抜いていた。全てがゆっくり動いているように見えた。


銃口から弾が発射されて右胸に痛みを感じ意識が無くなった。



 「葵先輩、起きて下さい。もう終わりですよ。先輩、どうかしたのですか? 急に寝るなんて」後輩が心配して顔を覗きこんでいた。


意識が戻った。弓道の練習中に寝てしまったらしい。


弓を右手に持ったままだった。

如何して寝ていたか、不思議な気持ちだった。


練習も何時もの時間に終わり、更衣室で制服に着替えて校門に向かった。


門を出る頃から、ストーカーの事、転生した事をうっすらと思い出していた。


家に向かって商店街の歩道を歩いていた。


少しずつ思い出し始めていた。後ろから、あの男が付いて来ていた。

もうすぐ前に刺された場所になる。


廻りに人はいなく、車道の車だけはひっきりなしに走っていた。男は直ぐ後に来ていた。


「馬鹿にするな、馬鹿にするな」と小さい声が聞こえた。


そして右手にナイフが握られていた。


前に刺された状況を思い出したが(まずい、体が動かない? 凛の村に戻って来てから能力が普通になった)


葵は最初に刺される右の腰に顔を向けた。


男が腕を後ろに振り、勢いを付けて刺して来た。


(あー もう駄目だ)と思った時、誰かが男の右手を取り、刺すのを止めて少し体を屈めた。そして左手の肘を男の右脇に入れ、立ち上がり、ふわーっと男を車道に押し出した。


倒れて飛んでゆく男が、ゆっくりと見えた。


男は大型トラックのフロント部に衝突した。顔が歪んでいるのが見えそのまま前に転がり落ちて轢かれた。


「キィー! ドッカン! グッシャ」嫌な音を残して男は死んだ。


制服を着た女の子が葵を追い越して、振り向いた。

大きな目で雛人形のような顔をしていた。


「私も転生したの、この男に3日後に殺される予定でしたが、先に殺しました。葵さん」と言って走り去った。


葵はその子が角を曲がって消えるまで、ぼーっと見つめていた。



話は前後するが、凛は祖父が亡くなり、滝から飛び降りて自殺していた。異星人はゲームを進行する為に、葵と同じ時代の女の子を転生させていた。その後に葵と滝壷で出会った。


刑場では凛と、刑を邪魔した若い女が消えたと大騒ぎになっていた。


男は何人も女子高校生を殺したストーカーだと警察の調べで分かった。

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ストーカに襲われ、転生し、転送され、戦闘し、帰れるか? 少しガールズラブ 北宮 高 @kamiidehedeo

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