第9話 将軍との戦い

 ある日、部族長・祈祷師・葵・アリーナは多数の部族の集まりに参加した。

主旨は白人との対応と宗教祭りだった。


強行派は各部族の戦士を集め、一気に攻撃することを主張したが、穏便派は白人に圧倒されている現状を考え白人と融和を図りながら共存の道を見つける。

一方的に支配されないための抵抗は必要で、個々の部族の戦闘を勧めた。

 

アリーナは強行派であったが、転戦中に西に向かって来る無尽蔵の白人の開拓者を目の前に見て、この戦いは最終的には勝てないが、最後まで戦うと誓っていた。


 集会には1800人近い部族が集まっていた。そして、兵隊の動きを探っていた斥候より情報が入った。


将軍がこの集会の襲撃を計画していると、しかも率いる兵隊は700名程らしい。


部族の情報も把握しているのに兵隊の数が少ない、誘い込み挟み撃ちにすれば勝機があると部族長達とアリーナは作戦を検討した。


部族長達と部族の男達は警戒してない振りをするため、宗教祭りとして男達に太鼓を鳴らし、火を炊き夜まで踊るように指示した。


 将軍の斥候も部族の人数と光剣の女神がいることを知らせてきた。


次の日の朝、将軍は兵隊を率いて川沿いの道を部族の集結地に向かっていた。


部族の人数が多いから攻撃を中止するようにとの進言もあったが将軍は無視した。

前の戦争では少人数で幾つもの手柄を挙げて来た自信もあった。


部族の集まりを挟み撃ちするために隊を3隊に分けた。


そのうちの1隊約200名に側面より攻撃させた。


だが部族の数が多く撃退され散り散りになった。その情報は将軍には届いていなかった。すると将軍の前方に部族の1隊が現れた。


総勢50名ほどで先頭にいるのは羽飾りを付けた光剣の女神アリーナだった。


ここに集まった部族の殲滅とアリーナを倒せば、目的達成がより近くなると将軍は思った。そして将軍はもう1隊を残し、追撃を始めた。


アリーナ達は追いつかれない速度で逃げ、将軍たちを窪地に誘い込み対峙した。


将軍は左右の腰にそれぞれ1本ずつのサーベルを付けていた。

右側のサーベルの柄の真中に埋め込まれている透明な石が見えた。


神の刀だとアリーナは確信した。一緒にいた葵も気がついた。


将軍はその刀を抜き頭上に突き揚げた。透明な石と刀身が光り、消えて鞘に収めた。

次に別のサーベルを抜き、「突撃!」と叫んだ。


突撃ラッパが鳴った瞬間、凄まじい銃声がして、将軍の兵隊は次から次へと撃たれ馬から落ちた。


窪地の両側に部族が待ち伏せていた。


将軍は罠に嵌ったと気付き、兵隊を馬から降ろし円陣を組ませたが、激しい攻撃に将軍の250名の兵隊は数十人までに減っていて弾薬も尽きかけた。


葵は円陣の中に部族と同じ服装と顔をした男が何人かいることに気づき、隣にいた部族の男に聞いた。


「あの人達は金で白人に雇われている斥候で我々部族の情報を白人に渡している。それに地形に詳しいので案内役もやっている」と軽蔑するように言った。


何人かいた斥候も次々に倒れ、最後の1人がしぶとく戦っていた。


銃弾が当たらないように円陣の中で伏せ、部族の男が槍とか斧で接近戦を挑んでも一瞬で倒して、また銃弾から身を守るように伏せていた。


葵は斥候が持っている刀を見て驚いた。日本刀だった。


男の顔を見ると左頬に刀傷があり転生前の葵を殺した男に似ていた。

男も葵に気が付いたようだった。


男は身を伏せたまま「葵さんですね?」と分かっていたようで聞いてきた。


こんな処で出会うとは不思議な感覚だった。そして男の言葉に頷いた。


「如何して襲撃した?」


「宝刀を奪って来いと命じられた。それに長と葵さんの命を狙えと」


「誰の命令で?」


「分からない、ただ頭の中から聞こえたので神の声だと思った」


「何故ここにいる?」


「頭の中から声がして、神隠しの滝壷に入った。気が付いたらこの国に来ていた。そして将軍の配下になった」


すると馬に乗ったアリーナが近づいて来た。


男の前まで来ると「部族への虐殺を繰り返して来た罪は消えない、それにこの男は信用できない!」と言って持っていた刀で切り付けた。


男は刀を跳ね返し、馬に乗ったアリーナは少しランスを崩した。

葵は男の剣の腕前を知っていた。馬に乗っていることも不利だった。


男が右に廻り、アリーナの足を切りつけようとした時、矢が背中に刺さり男は倒れた。


葵が弓を夷っていた。


生き残っているのは将軍一人になった。しかし、銃弾も矢も弾き返し、部族の戦士が戦ってもサーベルで次々と倒されていた。


アリーナは円陣の端にいる将軍に近づき、馬から降り宝刀を抜いた。


将軍も覚悟を決めたように神の刀のサーベルを抜いた。


お互い防御の効かない決死の戦いで、手は出さないと葵は決めた。


将軍はサーベルを持つ反対の腕を肩まであげ、軽快に小さく左右に体を揺らせてサーベルで突いて来た。それを何回も繰り返した。


その攻撃にはアリーナは慣れていたのか、将軍の突いてきたサーベルを左に払い宝刀で右胸を突いた。


将軍はその場で絶命したが、その時に将軍の頭部から霧状のものが出てアリーナの頭部に入った。


葵も一瞬見えたがそれが何か分からなかった。


「アリーナに神が乗り移った、将軍の悪神が!」と祈祷師が叫んだ。


アリーナは宝刀を背中の鞘に収め、将軍のサーベルを鞘に収めて、手に持つと馬に乗った。 葵が「アリーナ!」叫ぶと、こちらを向いたその目は虚ろで何かに憑依されているようだった。


(アリーナから神を取り出せ!)と頭の中から違う声が聞こえて来た。


葵はアリーナの前に立ちふさがった。


アリーナは馬から降りて将軍のサーベルを抜いた。


もう、アリーナでは無い、何かに憑依されていると葵は感じた。


葵も刀を抜いた。アリーナが近づいて来た。顔が上気して大きな眼は虚ろだった。

意識が朦朧していると葵は感じた。


(どのようにするのだ?)葵は何時も聞こえる声と違うことに不審に思ったが、聞いた。

(気絶させ、サーベルの柄をアリーナの頭に近づける)


葵が刀で打ち込んでも堅い殻に跳ね返されてしまった。


古文書に宝刀は人を切ると一時的に効力がなくなる事を思い出した。

葵はアリーナの左側に廻り込み、一撃を加える振りをして、神の刀に自分の腕を押し当て傷を付けた。


するとアリーナを防御していた堅い殻がなくなった。


葵は両手の平でアリーナの右胸を打撃して失神させた。


倒れる彼女を抱き止めサーベルの柄をアリーナの頭に近づけた。


頭から霧状のような物が出て来てサーベルの柄の部分に吸い込まれていった。


(これで君の役目は終わった。そのサーベルと宝刀を回収する。川の中の白い球体の処へ来なさい)とまた頭の中から声が聞こえてきた。


状況を見て戸惑っている部族の戦士に気絶しているアリーナを村に届けてくれるように頼んだ。


暫くして葵は誘導されて川の畔にいた。


このまま、アリーナとアイラと別れるのは気が引けた。が役目は済んだと考えた。


 川に入り、球体に吸い込まれすぐに気を失った。そして気がつくと水面に向かって泳いでいた。不安に思いながら水面より顔を出すと村の滝壷ではなかった。


葵はアイラの待つ部族の村に向かった。


(宝刀は届けたか?)転生した時の声が聞こえた。


(はい、届けました)


(宝刀の柄の金具と、貴方の刀の金具と交換したか?)


(しましたけど? 固形の毒が奥に仕込んであるが、大丈夫ですか?)


(大丈夫だ、死ぬことは無い、警告だ)


(私はまだ帰れないのですか?)


(まだ、帰れない。機会を待つように)


(少し、聞きたいことがあるのですが?)


(何ですか?)


(私の能力を二倍にした以外、何かしたんですか?)


(あー、少し男らしくした。精神的に戦闘に必要だから)


(それで、凛に対して変な気持ちになったのか?)


(そうです。元に戻ればきえます)


(分かりました・・・・)


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