第6話 部族の暮らし
小高い丘が見え、その頂上に部族長がいる村があるとアリーナが話した。
アリーナを先に坂道を登って行った。円錐の住居が幾つか見えてきた。
後でアリーナからそれはテントだと聞いた。
後方から蹄の音がしたので振りかえると、20人程の部族の男が銃や弓を持ち馬に乗り駆けて来た。
皆、殺気立っていて、取り囲まれた。
集団の頭らしき男がアリーナに聞いた。
「誰に襲撃された? 部族村長は?」
「大勢の兵隊に、父と母は殺された」
「何時頃?」
「大分前に、今からでは追いつかないと思う」
「分かっている、その人は?」と頭は憮然として聞いた。
「私を助けてくれた人、白人の仲間ではない」
男達は坂道を駆け上がり部族長の処へ向かって行った。
アリーナは今の男達は自分と同じ村の部族で、頭らしき男は副村長だと葵に話した。
村に入ると先程の男達が部族長のテントの前に立っていた。
テントの前には、羽飾りを被った中年の男が立っていて、それが部族長だった。
その横に杖を持った老人がいた。祈祷師のようだった。
「両親・妻・子供はほとんど殺された。今すぐ追って報復したい。20人程手勢をお借り出来ないでしょうか?」
「大分前に襲撃されたと報告があった。今から追い掛けても無駄だろう。報告して来た者が隊の番号・名前を見たので機会を待とう、で部族村長は無事なのか?」
するとアリーナが部族長の前に出て行き膝を落として
「両親共殺されました」と泣きながら答えた。
「部族村長夫妻には気の毒な事になったが、アリーナが無事で良かった」
部族長はアリーナを見て慰めた。
そして、後方にいた葵を見て祈祷師と何かを話した。
「皆に重要な話がある。各部族村長と副村長とアリーナ、そこの客人はテントの中に入るように」と部族長は命じた。
テントは少し大きめで、部族長と祈祷師が中央に座った。
その後に部族村長が取り囲むように半円状に座り、葵とアリーナは部族長の対面に座らされた。
「まず、アリーナに話がある、残念な事に部族村長が亡くなった。次の村長を決めなければならない。子供はアリーナしかいないが、女は跡を継げないので副村長に部族村長なって貰う。落ち着いたら別の場所で村を作って欲しい、アリーナは一緒に行っても良いし、この部族に残っても良い。ただ客人と祈祷師の話に関係がありそうなのでまだ残っていてくれ」と部族長は話し、次に葵に向かって話をするように言った。
葵は村の言い伝えにより災いを治めるため、部族の娘に宝刀を渡しに来たことを話した。部族長は葵の話に頷き、祈祷師にも話をするよう促した。
「以前から神のお告げがあり、災いはもう起きていて続いている。その災いを断たなければならない、そのため異国から災いを防ぐため神の刀を娘達に渡す人が来る。それが貴方です」と葵の顔を見て話し、続けて
「神の声では、災いとは政府の将軍で数年前に和平の白旗を揚げていた部族を襲撃して、無抵抗の女・子供・老人を虐殺し、頭の皮を剥ぎ、死体をばらばらにした。そのような部族の虐殺は今も続いている。彼がいる限り部族が壊滅すると、しかも彼は不死身になり弾丸も矢も跳ね返してしまう神の刀と呼ばれるサーベルをもっている。そのサーベルを持って突進する時には彼の馬にも弾丸も矢も当たらないそうだ。その将軍を倒すことが災いを防ぐ事と神は言っている」
「私の持ってきた宝刀は将軍のサーベルと同じ力があり、言い伝え通りに娘に宝刀を持たせれば不死身となり、神の刀で戦い将軍を倒したら災いを防げます。私は娘に剣の使い方を教え、災いが収まるまで此処に留まります」と葵は伝えた。
部族長が宝刀を持つ娘は誰なのかと尋ねた。
葵は最初に出会った娘と決めていたのでアリーナと答えた。
「アリーナは部族村長の娘であり両親の仇とるためにも彼女が相応しい」と祈祷師も答え「又この部族の言い伝えでは娘は2人である」と話した。
「確かに古文書には人数が書いてありませんが、しかし宝刀は一本だけです。神の声ですか?」と葵は聞いた。
「神の声でもあったが、部族の言い伝えでもある。昔に空から災いが降りて来て、選ばれた娘二人が剣を持って戦い、災いを防いだ話がある」
「アリーナは、部族村長が盗賊に襲われた開拓者の幌馬車の中から5歳の白人の少女を見つけて育てた、白人なので相応しく無いのでは」と副村長だった男が反対した。
「私は部族で育ってきました。小さい時からそれは分かっていた。私の体は白人でも魂は部族の娘です。育ててくれた両親の仇が討ちたい。私もその1人に入れて下さい」アリーナは縋るように部族長と祈祷師を見て話した。
「貴方がアリーナを連れて来た。それも意味がある事だと思う。貴方が決めて下さい」祈祷師は葵に向かって行った。
「私はこの国に来て初めて会う娘に宝刀を渡すと決めていました。その1人にアリーナを入れても良いと思います。2人で競い合わせて優れた娘に授けるつもりです」と葵は答えた。
最後に部族長が「我々の祖先はこの広い神から与えられた土地で自然の恵み受け、たまには部族間の争いもあったが平和に暮らして来た。ある時から大勢の白人が来て、我々の生活・文化を破壊した。今も破壊し続けている、将軍を倒してもそんなに状況は変わらないと思うが、それが転機となれば幸いだろう。部族の言い伝えなので出来る限り協力する」と話した。
葵はその時が来るまで娘達に剣術を教えながら暮らすことになった。
それから祈祷師が娘を連れて来た。
アイラと言う名前の十五歳の可愛い娘だった。アリーナより少し小柄で大人しそうな娘だった。
葵は娘の佇まいを見て凛を思い出した。
「アイラがまだ乳飲み子のとき両親は兵隊に殺され、部族の皆に育てられた、部族に恩を返したいと、本人の希望で連れてきた」と祈祷師は話した。
葵は部族長よりテントを用意して貰い暮らし始めた。
葵は持ってきた木刀を2人に渡して稽古を始めた。
木刀の握り方を教え、上段からの打ち込みから始めさせた。
突かれたり、打ち込まれた時の避け方を教えた。
特に相手の剣を払い、廻り込んでからの突き・袈裟掛けの稽古を重点にさせた。
戦いで武器が使えない、無い時に身を守るために格闘術を教えた。
相手の力を利用して倒す・投げる、打撃の方法、体の急所などを教えた。
2人の上達は格段に早かった。特にアリーナは早かった。
2人は同じテントで暮らしていた。
アイラは葵とアリーナと一緒いるのが嬉しいようで、稽古の時以外は子犬のように付いて廻っていた。愛情に飢えているようだった。
特に葵には纏わりついていた。顔が部族に似ていて、少し、男らしさを感じていたようだ。
ある時、稽古の時になっても2人が来ないので、外で待っているとアリーナがアイラを抱きかかえてきた。
アイラは気を失っているようだ。葵はアリーナの側に行き、アイラを抱えてテントに入り寝かせた。
アリーナに「どうしたの?」と聞いた。
「川で部族の男に襲われ、首を打たれて気絶したようです」
「何かされたの?」
「大丈夫です。私が木刀で2人を倒しました」
「何故、川に?」
「アイラが葵に魚を食べさてやりたいと川に行った。最初は1人で行かせたが、何か、気になったので木刀を持ち川に行ったら部族の男に襲われていた。稽古はアイラには役に立っていない。アイラは優しくて戦闘には向いていないと思う」
「確かにそうかもしれない。でも、もう少し様子を見ましょう」と気絶しているアイラの顔を見て、まだ子供なのにと可哀そうに思った。
暫くして、アイラは気が付き、恐怖心で廻りを見たが、葵とアリーナを見つけると安心したようで、ニコっと笑った。
葵は呆れて言った。
「勝手に1人で危ない処に行かないように」
「子供の頃に行った川で、大丈夫だと思った」
「アリーナが助けてくれた。感謝した方が良いよ」
「アリー、有難う!」
「いいよ、実戦を経験したいと思っていたから、良い機会だった」アリーナは木刀をかざしながら答えた。
「でも、アイラ、重くなったね。お尻と胸が大きくなったのかな? それで部族の男に狙われたんだ」とからかうように言った。
「いやー、止めて!」と言いアイラはアリーナの背中に廻り、抱きついた。
「止めろよ、暑苦しいから」アリーナは満更でもないようだった。
葵はアリーナ・アイラと気安く接するようになっていた。
3人で話をすることも多くなってきた。
アリーナは武術の質問が多くすぐ吸収していった。
アイラは葵の国に興味があるようで色々な事を聞いてきた。
「白人は葵の国にも居るの?」
「居るけどほんの少しかな?」
「此処のように勝手に入ってきて襲撃したりしてない?」
「襲撃などされてないが・・・・」葵は転生したのでこの時代の実感が無かった。
「葵、どうしたの?」とアイラの声が聞こえた。
「襲撃などされていない、今は国として進み出している」と習った日本史を話した。
「白人に襲撃されていない葵の国は強いのね」とアイラは感心していた。
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