第5話 襲撃された部族
気がつくと水中の白い球体から出て、水面に向かって泳いでいた。
水面より顔を出すと、廻りの景色が変わっていた。
滝壷ではなく、緩やかに流れる川の一部に水の流れが滞って出来た広い場所だった。
川底には白い球体が薄く見えている。
廻りには高い木はなく、川の廻りは草が生い茂っていた。
草の間から金色の光が差し込み朝だと感じた。
葵は川から出ると、上依と袴に溜まっていた水を絞り出した。
これで少しは動き易くなり箱を背負った。
草を掻き分けて行くと、川に沿って出来ている細い道に出た。
少し空気の臭いが違う気がする。
まるで目的地が分っているように細い道を川上に向かって歩き始めた。
空気が乾いていて、歩いていると着物はもう乾いていた。
暫く、歩くと廻りの草も減り、道は石と砂が多くなってきた。
そして廻りが崖のようになって赤土が見えている禿げ山が幾つも見えてきた。
葵が歩いて来た細い道は広い砂利道に繋がっていた。
広い道は蹄の跡や馬車の轍が無数あり、葵はその広い道を進んだ。
道の両側は先程の山が連なっていた。
前方に砂煙が上がり蹄の音が聞こえて来た。葵はとっさに道の側に転がっていた大きな石の後に隠れた。
50人程の青い服の男達が馬に乗り、葵が来た道を反対方向に駆け抜けて行った。
細い剣と短銃を腰に付けていて、以前、テレビの映画で見た西部劇の騎兵隊だった。
暫くして、小高い丘が右手に見えて、頂上より幾筋も煙が上がっているのが見えた。部族の集落があると思い、丘の上に続いている細い道を登って行った。
着くと、円錐形の部族の住居が多くあって、ほとんどが燃えていた。
酷いことにその廻りに女性と子供の死体が転がっていた。
衣装はやはり西部劇で見た部族の物だった。
蹄の跡が無数あり馬に乗った数十人の集団に襲われた。
それは先程の騎兵隊だと推測した。
統制の執れた兵隊が無抵抗の部族の女・子供達を殺した。
このような状況に動揺しない自分に葵は驚いた。意識が変わっていた。
少し奥へ行こうとすると、娘の悲鳴が聞こえた。その方向に目をやると、3人の男がこちらに背を向けていて、先頭の男が娘を押え付けようとしていた。
娘は座り込みながら抵抗していたが、押え込まれる寸前だった。
3人の男は腰に拳銃を下げている。
箱を降ろして弓と矢を取りだし、6mほどまで静かに近づき、矢を三本持ち次から次へと射た。
三人は背中を射抜かれて倒れた。
葵は恐怖で蒼白になって座り込んでいる部族の娘の前に片膝を付き、顔を見て頭に手を置いた。
「もう大丈夫、怪我はしてないの?」と声をかけた。
すると娘は安心したのか声を出して泣き始めた。
その時、葵は部族語を話せると分かった。
この部族の虐殺はこの国の政府の兵隊が行ったことで、3人はその後を狙う盗賊だったことも娘から聞いた。特に毛皮が目当てらしい。
娘が兵隊の襲撃中に隠れていて、兵隊が引き揚げた後に出てきた時、この3人に捕まったようだ。娘は立ち上がると慌てて廻りを探し始めた。
「どうしたの?」と尋ねると「父と母が・・・・」で言葉が詰まってしまった。
兵隊に襲撃され恐らく生きてはいないと葵は思った。
暫くすると見つかったらしく娘の泣き声が聞こえてきた。
そこへ行くと変り果てた両親の遺体があった。娘の父親はこの襲撃された部族の村長であり、部族の男達は狩りに出ていたらしい。
娘は自分の円錐の住居から羽飾りを持ってきて父親の形見だと話した。
葵には娘が13か14歳位に見えたが、立ち上がると、背は葵と同じだった。
そこで娘に名前と年齢を聞いた。
名はアリーナ、18歳位だと答えた。
目が大きく鼻が高く、瞳が青く彫が深かく、髪の毛も黒くなく茶色だった。
葵は部族の娘ではなく白人だと思った。
アリーナは葵に何処の部族かと聞いてきたが、葵は異国から来たと答えた。
そして葵がここに来た目的を簡単に説明し、この辺の部族を束ねる部族長に会いたいと伝えた。
アリーナは安心して、そこに案内すると言ってくれた。
両親を埋葬し、男達の馬に乗り、部族長のいる集落へ向かった。
その集落には神の声が聞こえる祈祷師がいるらしい。
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