第2話 転生


「キーン、カキーン」と金属同士がぶつかる音が微かに聞こえ、男達が争う声が徐々にはっきりと聞こえて来た。意識が戻って来たようだ。


仰向けに倒れていた。薄暗い部屋で暗さに目が慣れ始めて来た。

光りは四角い紙の箱の中から漏れていた。


左手に何かを握っている感覚があった。それは締まった布のように感じ、少し頭を上げて見ると日本刀だった。黒い柄の部分を握っていた。


足元から向こうを見ると、黒い服の男が二人、背を向けて立っていた。


二人は黒い頭巾を被り、刀を構えていた。男達が動く度に風が起きるのか男達の影が壁にゆらゆらと揺れていた。


男達の先には白い寝着の中年の男が腰を落として片手で刀を構えていた。

右足と右手を切られ血を流していた。


(何? ここはどこ? 何が起こっているの? 私はどうなったの?)


異常な状況に思考能力を失い、唖然としていた。


(そこの襲われている男を助けなさい)頭の中から声が聞こえた。


右手を付き上半身を起こした。


白い上依を着て赤い袴を履いていた。上依は右肩から下腹部まで切り裂かれ、真っ赤な血で染まっていた。が私には切られた感覚はなかった。


私は片膝を付き、刀を握ったまま立ち上がった。


「葵、逃げろ!」それを見て寝着の男が叫んだ。


右側の男が振り向き、生きていたことに驚き、上段にから切り降ろそうとした時、葵は刀で男の胸を突いた。


「うー」と呻いて男は刀を落とした。葵は刀を抜くと男はその場に倒れ込んだ。


その先にもう1人の男が刀を中段に構えて立っていた。


(ここはどう見ても、武士の時代、私が勝てる相手ではない、どうすれば良い?)


(大丈夫です。貴方に普通の人の二倍の能力が出せるようにしました。何時もの剣道の稽古と思って下さい)


葵は上段に構えた。「えい!」と叫び刀を振り下ろした。


確かに各段に早くなっていると葵は感じた。普通の人なら頭を割られていただろう。


男は手練で一歩下がり避けたが、刀の切っ先が覆面を裂き、頭巾が落ちた。

顔がはっきり見え、左頬を縦に切られ血が滴り落ちていた。


男は戦意を喪失したか? 後ろに数歩下がり、背を向けて逃げていった。


「葵、大丈夫だったのか?」寝着の男は腰を落としたまま聞いてきた。


葵は呆然として立っていた。


(貴方はこの村の長の娘の葵に転生した。貴方が転生する前に、すでに葵は斬られて死んでいた。寝着の男が父親で、横で死んでいるのが母親だ。貴方は長の娘の葵として暫く生きて貰う)と頭の中に聞こえた。


 襲撃事件から一カ月程経っていた。


葵は長の娘として暮らしていた。

父親は襲撃の時に受けた傷で不自由な体になった。


農作業は小作人を3人雇ってあり心配は無かったが、片足を引きずり、片手も物を握れなくなっていた。


襲撃事件以来、葵の父親は家が隣の菊婆に食事と洗濯など身の回りの世話をしてもらっていた。


葵は父親の長の仕事の代役と、暇があれば剣術の稽古をしていた。


ある日、父親が葵を呼んで話した。

「葵に頼みがある。今日は神社に行く日だが、体が思うように動かないので代わりに行って、ある事をして欲しい」


「分かりました。で、どんなことを?」


「この事は村の長だけが代々してきたことで、これから先、私は出来ないので、葵に長の代理として、やって貰おうと思っている」と神社での儀式を教えた。

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