ストーカに襲われ、転生し、転送され、戦闘し、帰れるか? 少しガールズラブ

北宮 高

第1話 序章



 これでもかというほどに、お腹と胸を刺されている。薄れゆく意識の中にナイフを持った男が影のように揺れて見えていた。


もう、恐怖で痛みが感じられなかった。仰向けに倒れていて、首を少し挙げると、制服の胸と腹部が真っ赤に染まり、歩道のコンクリートに血が流れ出ていた。


私を襲った男はその場に立ち尽くし、私を見降ろしている。


 「葵、今日部活は?」と同じクラスの由美が聞いてきた。


「今日は休んだ」


「どうして?」


「最近、部活帰りに変な男の人に付けられている、帰る時間をずらし様子を見ようかと」


「葵は美人で背も高く、スタイルいいから、ナンパじゃないの?」


「そうじゃないの、何も言わないで黙って付いて来るだけで、止まっても追い越して行かない、それがもう十日以上も続いている」


「それは気味が悪いね。葵は今も剣道や合気道、拳法の道場に通っていて、部活も弓道だから、やっつけちゃったら」


「そんなに簡単にはいかない」


由美とは暫く一緒に歩いて、交差点で別れた。

やはり男はいなかった。部活の帰りの時間を知っていて付いてきていると確信した。


葵の高校は女子高で、規律・規則が厳しく髪の毛を染めたり、スカートの短い生徒はいなかった。

地元ではお金持しか行けないお嬢様学校とか言われていた。


高校三年で、弓道部の主将をしていた。

近く、県大会があり、葵には最後の大会になるので、余り休んではいられなかった。


次の日、部活が終わり家に向かっていた。

やはり、例の男が後から付いてきていた。


今日の弓道の練習の結果は最悪だった。葵はこの男のせいで精神が乱れてたからと思った。


葵は急に立ち止まった。男も止まりので振りかえって


「私に、何か用があるのですか?」と男の顔を睨みながら聞いた。


男は驚いて、黙って葵をじっと見た。


葵も男の目を見据えた。


細い目の奥に、なんとも言えない深い闇が見えた気がした。

少し、男が笑ったように見えた。


男が葵の脇をすり抜けようとしたので、右手を取り廻して引いたら、男はあっさり倒れた。


廻りの人達がその状況に気が付き、集まって来た。そして、どうしたと聞いた。


「この人は私の後を毎日付けていました。ストーカーです!」と葵は倒した男の腕を押えながら答えた。


囲んでる人達は葵の容姿と男の様子を見て、察しが付いたのか、次々と男に罵声を浴びせた。

それでも男は一言も話さなかった。


誰かが通報したのか? 警官が二人やって来た。


葵は男の手を離すと、男はゆっくりと立ち上がった。


葵の話を聞いた警官が男に質問した。

「何故、後を付けた?」


「付けていない」男は小さい声で否定した。


「十日間も何時も同じ時間はおかしくないか?」


「いつも、同じ時間に通勤して駅に降りている。それで同じになる」といって定期券を見せた。


警官は男の住所を聞き、勤め先とアパートの位置を確認した。


そして、取り合えず問題は無いとして解散させた。


たまたま、同じ方向で、同じ時間で、葵もやり過ぎたと思った。


次の日、葵は部活を終え家に向かって、商店街の歩道を歩いていた。


やはり、後ろからあの男が付いて来ていた。


徐々に近づいてきたので、今日は急いで追い越してゆくのかと思った。


男が横に来た時、右の腰に激痛が走った、見ると男にナイフが握られ、腰を刺されていた。


「馬鹿にするな! 馬鹿にするな!」と男の声小さく聞こえた。


葵は男の腕を取ろうとしたが、痛さで体が動かず、その場にしゃがみ込み仰向けに倒れた。


そして、男が馬乗りになり「馬鹿にするな! 馬鹿にするな!」

と言いながら刺して来た。


意識が遠のき、駄目だと思った時、頭の中から声が聞こえて来た。


(葵さん、貴方の命は後五分程です。ある使命を遂行して貰います。遂行できれば、今のこの時間を一時間戻しましょう)


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