第58話
「どう……して……」
自分のものとは思えない、掠れた声が零れる。
なぜ? アルはただのお客さんとしてきたセンティアでしょう?
今目の前に、血濡れた武器を持って笑顔を浮かべているのは、なぜ?
グレンとだって、何か関係がある感じでもなかった。
どこにも接点はない様子だったのに。
「どうして、かあ。まあなるようになった、としか言いようがないよ。むしろ、僕がリリアちゃんに聞きたいな。どうしてこんな弱っちいやつを店に置いてやったの? 店での態度も最悪だったし。――ま、いっか。席は空いたから、僕を雇うのはどう? この仕事が終わったらフリーだし、リリアちゃんの傍で過ごせるなら喜んで働いちゃうよ? ほら、僕人当りもいいから安心して?」
ぶんぶんと赤く染まった剣を振り回しながらペラペラと喋るアルの姿を、ただただ、じっと見つめるしか出来ない。
やけに私に執着しているアル。今のこの状況は、ひょっとして私が作った……?
私が居たから、私がグレンに用心棒なんて頼んだから、こんなことになった……?
冷え切った心が、さらに重さを増す。
「弱い奴ほどよく吠える」
私のすぐ横から、地を這うような低い声が響いた。
顔を向けると、マスターがそっとグレンの身体に手を当てて、小さく何かを呟いている。そして薄い光のベールがグレンを包み込み、一瞬で消え去った。
「これは応急処置。ほんと昔から治癒魔法が苦手でね……今の僕にはこれくらいしか出来ない。ただ、傷口を薄い膜で塞いだだけ。大きく揺らしたら意味のない本当に弱いものだから、リリアちゃんがグレンのこと守っていてくれるかい?」
さっきの声を出したとは思えない、いつもの柔らかい笑顔を向けてくれている。
「マ、スター……」
「ほら、不安な顔をしないで。大丈夫だって言ったでしょ? グレンも生きてる。これからも生き続ける。周りが信じないと。僕、言霊って信じるタイプなんだ。だから僕とリリアちゃんが“生きる”って言ったら、グレンは生きる。ね?」
そしてマスターはそっと立ち上がり、
「だからあとは――僕に任せて」
と、力強く言った。
「ああ? てかさっきからお前何? 首突っ込まないでくれる? ややこしいから」
「ややこしい? 至ってシンプルだろ? 僕がお前を倒して、それでおしまいだ。それにしても――こんな雑魚にどうしてグレンがやられたのか疑問に思うね」
アルの顔から、笑顔が消えた。
「さっきの様子からすると魔法使い、ってところか。こんなに突っかかってくるんだ、少しは楽しませてくれるんだろうね?」
剣を横に構え、切っ先をマスターに向けてくる。
「こっちのセリフだ。久しぶりの戦闘、楽しませてくれよ? ただし、手短にな」
マスターは、ゆるく編んでいた髪をぱさりと解いた。
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