第37話
ぴり、とした空気が張り詰める。二人は、知り合いだったの……?
「リリア、グレンと知り合いだったのか?」
「え、ええ。ちょっといろいろありまして……」
酒場で出会って、暴漢から助けてもらって、そして今は自分で経営している店で働いてもらっている――って説明しても混乱してしまうだけな気がするから、端折ってしまった。ギルは歯切れの悪い私の説明に、不審そうな表情をしている。
「いろいろ、なんて濁さずにちゃんと言えば良いだろ? 俺と毎日朝から晩まで一緒に過ごしてる、ってな」
「はぁ―――――っ⁉⁉⁉⁉⁉⁉」
な、な、な、何を言ってるの⁉⁉⁉ 確かに平日毎日会っているけど! そんな誤解を生みそうな言い方をしなくても! ――って、ほら! ギルの眉間の皺がさらに深くなっちゃったじゃない……!
「ち、違うの! いや、違わないんだけれど、でも、そんなんじゃなくて! えっと……」
思わず言葉遣いも砕けて、しどろもどろになってしまう。
っていうか、グレンなんてことしてくれんのよ! キッ、と見つめると、いつもの飄々とした顔をしていて、本当に何を考えているのかわからない。
空気もさらに不穏なものになってしまって、どうしよう……と思っていると、後ろから「皆さま、広間にお集まりください」と執事から声がかけられた。
た……助かった。
無言の二人と一緒に広間に戻ると、階段を数段登った場所に女王陛下が立っていた。
「皆、踊ってばかりいるのも疲れるだろう。ここで一つ、余興を用意した。我が王立騎士団の優秀な面々と、学園で優秀な成績を収めている我が息子、ギルの手合わせをご覧入れよう」
女王陛下が手を叩くと、広間の扉が開いて赤い制服に身をまとった騎士団の面々が広間の中央に集まってくる。
え? 手合わせ? というか舞踏会だったよね? こんなことあるの?
色々と疑問を浮かび上がらせていると、注目を一身に浴びていたギルが「リリア、ぜひ見ていてくれ」と優しく微笑んで私に告げる。周囲の女性陣からため息が漏れた。わかる。この笑顔は反則だわ。
そして真剣な表情に切り替えたギルが中央に進み出たのを合図に、騎士団の中から年嵩の剣士が通る声で挨拶をした。
「みなさま、我々王立騎士団にこのような晴れやかな場をお借しいただき、感謝致します。女王陛下の御計らいとギルさまのご協力を頂き、今日は少しだけ我々の剣の腕を披露させていただきます」
ギルは騎士団の一人から王家の紋章が入った剣を受け取ると、団員は若い一人を残して距離を置く。残された剣士は歳の割には纏う雰囲気が手練れそうだけど、大丈夫なのかしら……。ギルは学園の勉強に秀でているかもしれないけれど、こういった身体を使うことは得意じゃないかもしれないし……。
――でも、そんな私の心配は杞憂に終わった。
ギルは、危うげなく相手の剣戟を数度受け流すと、いつの間にか相手の後ろを取って首筋に剣をあてていた。
皆あまりの速さに何が起こったのか分からなかったのか、一拍遅れてワッと拍手が沸き起こる。
す……ごい。正直、こんなにギルが動けるなんて思ってもみなかった。
事前に打ち合わせをしていたにしろ、少しくらいはぎこちなさが出てしまうものだと思っていたけれど、そんなことは一切なかった。まさに柔の剣。しなやかな筋肉が、それを可能にしているのかもしれない。
ギルは剣を団員に返し、女王陛下に綺麗な一礼をすると、私のもとへと帰ってきた。
「ギルさま、すごかったですわ! 剣の腕も優秀なんて……天は二物も三物も与えるんですね」
「褒めすぎだ」
でも、その表情はまんざらでもなさそうで。
女王陛下も満足そうな笑みを浮かべて、言葉を継いだ。
「他にも、腕に覚えのあるものはいないか?」
え? まだやるの? もう十分盛り上がったからまた本来の舞踏会に戻ると思っていたけれど、そうではないらしい。
そして近くにいたグレンから「なるほど、そうきたか」と呟く声が聞こえた。
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