第四章 舞踏会に参りましょう

第28話


「――おい、おい! 客だ」


グレンの声ではっと我に返る。

そうだ、いけない。今は仕事中だった。


「いらっしゃいませ。お仲間をお探しですか?」


ギルから舞踏会のお誘いがあってから、こうしてぼーっとすることが増えている。あの時、少しだけ嬉しそうな様子を感じられて良かったけれど、本当に私がいっしょに参加してもいいのかしら……。女王陛下の主催される舞踏会という意味合いが、婚約破棄をした今、重くのしかってくる。

でも、まずは目の前の仕事を一つひとつ丁寧に対応しなくっちゃ。


集中して数時間、やっと休憩時間になった。


「はあー、なんとか乗り越えた……」

「お前、何かあったのか」

「え?」

「いつもに増して抜けてるぞ」

「抜けてるって何よ、いつもも何も、ずーっと抜けてません!」


どちらかと言えば、抜けているのはグレンでしょう? 私の仕事中、猫のように日当たりがいいソファでくつろいで。ちょっと目を離したらふらりと外に出ていたりもする。

言いたいことは山ほどあるけれど、先日のマスターの言葉が頭をよぎった。


『グレンはね、自分が嫌だと思ったことはしないし、そのあたりははっきりしている奴だよ。リリアさん、これからもグレンのことをよろしくね』


勤務態度は難ありだけど、こうしてちゃんと来てくれている所は評価してあげなくっちゃね……。


「ま、いいわ。温厚なリリアさまですから」

グレンはやれやれ、といった表情でソファーに身体を埋めた。

「ちょっと! 寝ないでよ? そこは寝る場所じゃないんだから!!」

前言撤回。温厚なままじゃ私の身体が持たないわ。


――それにしても、この『リリーフィオーレ』にもそこそこのセンシャルが訪れてくれて、ある程度のメンバーが登録できた。それぞれに聞き込みをしたシートを並べ、求めるジョブをベースに、どんな目的で共に動きたいかをすり合わせていく。

人によってはほどほどレベルの魔物相手に数をこなしたい人もいれば、じっくり大物の魔物に取り掛かりたい人もいる。そういった細かい部分の齟齬を排除して、皆が気持ちよくパーティーを組めるようにするのが腕の見せ所、ね。


「あー、パソコンがあったらデータ化して条件式設定して抽出出来るのにー」

「あ? なんだ? お前の呪文か?」


グレンが瞼を少しあけてものすごい不審な目で見てくる。


「いいのいいの、こっちのはなし」


残念ながらこの世界にパソコンはないから自分で整理してやっていくしかない。


そして――初めてこの店を訪れてくれたボリスを含めたパーティー案をつくることができた。

ボリスは仲間に「誠実さ」と「明るさ」を求めていた。あの活力あふれる様子だったら、納得がいく。もちろんそこをベースに仲間を探すが、話を聞くにボリスはおそらく猪突猛進型だ。簡単に「明るい」人だけを集めると絶対にいつか崩壊してしまう。

そのため、明るくありつつも人との距離感が上手く調整が出来る剣士や、おおらかな母親のようなヒーラーをマッチングした。きっとこの三人ならいい仲間になれると思う。


これで行くと決めたあとは各人に渡していた魔通紙に、マッチングできた旨と店に集合して欲しい日時を書き込む。これで、それぞれが持っている半紙にも同じ情報が現れているはず。

ほどなくして、それぞれから集合日時について了解した旨が返ってきた。


初めてのマッチング、どうか上手くいきますように――。

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