第29話


そうしてドキドキしながら迎えたボリスの仮パーティー集合の日だったが、私の緊張はそっちのけで非常に和やかでスムーズに進めることが出来た。


「では、こちらの書類のご確認を一緒にお願いします」

「ほお、こんなものを作成するのか……ん? これは、ロレーヌ・リリア? ロレーヌって、あのロレーヌ公爵家のか?」

「ええ。わたくしのサインを使用することは正式に承認を得ております。ですから、こちらの書類は反故すればもちろん懲罰対象となります。ここに記載されていることは二つ。一つ目は、討伐対象を攻略した場合は『リリーフィオーレ』に賞金の5%を収めて頂きます」


おおらかな気質の魔法使いから「破格ね……」といった声が漏れ聞こえてくる。

そうでしょうそうでしょう。フロギーの酒場では30%が斡旋料として取られるものね。


「他の斡旋所よりは低い料金になるようにしていますが、このパーティーで行く討伐全てにかかります。ですので、再度共に行動する場合も当店へのお知らせを徹底していただきます。よろしいでしょうか?」


そう、低価格に設定するかわりに、リピート率を上げてそこから回収をしていこうという寸法だ。私の斡旋所でいい仲間に巡り逢えれば、ずっとその仲間と行動を共にしたいと思ってくれるはず。これはちょっとした賭けでもあるけれど、自分ならやれるという自信でもある。


「なるほど……いいだろう。続けて」


ボリスが真剣そうな顔つきで促した。


「そして二つ目。討伐に行く前に、この場で賞金の配分率を決めて頂きます。それぞれ対応する役割が違いますから、自分と他人の頑張り度合いを比較することは困難です。そのため、当斡旋所では賞金から手数料を引いた残りの額を、みなさまで等分することをお勧めしています。もちろん自由に設定することも可能ですが、いかがなさいますか?」

「へえ、この場で決めてしまうのは安心だねえ。俺は等分で問題ないけれど二人はどう?」


明るくて距離感の取り方がちょうどいい剣士がそう投げかけると、ボリスも魔法使いも「問題ない」と返事をした。

了解を得られたので、書類に各人のサインをしてもらう。これで契約成立だ。


「みなさま、ありがとうございます。こちらの書類は当店で保管させて頂きます。討伐をした際は一度こちらに立ち寄ってください。賞金は当店から払わせて頂きます。また、二回目以降の討伐に行かれる際は、その際にお知らせくださいませ。――それではこちらで斡旋業務は終了となります。掲示板を見て、好きな討伐に向かわれてください。ぜひ末永いパーティーとなりますように」

「がはは! こんな斡旋所は初めてだ! だが、制度も面白い。今回の討伐結果が楽しみだな。お嬢ちゃん、ありがとうよ」


そうしてボリスのパーティーは無事に旅立った。


「――で、どうだった⁉」


一部始終を見聞きしていたグレンに尋ねると、「まあ初めてにしちゃいいんじゃないか」なんて予想の斜め上の返しをされた。てっきり「俺には関係ない」とか言ってくると思ったのに。何となく返す言葉を見失ってしまうじゃない……。


「あー、腹減った。あいつら店にいすぎだろ。唐揚げは?」


ごめんごめん、全然いつも通りだったわ。


「あなたね、座ってるだけなのにどうしてそんなにすぐお腹が減るのよ!」

「一応目を動かしてる」

「口答えしないの!」


そしてしばらくして――店は揚げ物のいい香りで包まれた。

本当に、人を動かせるのが得意なんだから。

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