第27話
「ぶ、舞踏会ですか……?」
てっきり学園の課題などの手伝いレベルのものだと思っていたので、斜め上からの依頼に思わず訊き返してしまった。
「ああ。来月は母上の誕生日だろう? 恒例の舞踏会が開かれるんだが、今回は相手がいないのでどうしようかと思っていたんだ。実は――まだリリアとの婚約が無くなったことについて、父上と母上にお話ししていなくてな」
「そう……だったのですね」
きっと過去のリリアは毎年その舞踏会にギルと参加していたんだろう。それにしても相手がいないということは、聖女はまだギルの好感度を上げきれていないのね。
そしてまさか、国王陛下と女王陛下にお話が通っていないとは……。ここでお断りすることも出来るけれど、別れの時の苦い気持ちを思い返すと、もうギルにあんな切ない顔をさせたくないと思ってしまった。
「わかりました。ですが、なるべく早く、私たちの関係について国王陛下と女王陛下にお話されたほうが宜しいかと」
「ああ、わかっている」
ギルは、私の返事を聞いてほっとした表情をしたあと、言いにくそうに言葉を続ける。
「その……リリアがみた夢は、私が別の女子生徒と懇意にしている様子、だったんだよな……?」
「ええ……。まだどなたのことかお分かりにならないですか?」
「ああ、全く心あたりがない。学生ということだから、この先三年以内に起こるということなんだろうが……」
そう、私の予知夢は未来のことではあるが、それが“いつ”のことなのかは確かではないらしい。夢の中の人や周囲の状況からどのくらいの出来事なのかを想像している、とクラリスは言っていた。
「もうすこしだけ時間がかかるのかもしれません。ですが、その方はきっとギルさまのお力になってくれるはずです。ぜひ、ギルさまも学園生活は退屈かもしれませんが、未来の出会いを楽しみにお過ごしください」
聖女とギルが結ばれるのは確実だから、大丈夫。――それにしても聖女は何をしているのかしら? 好感度を上げるのにそんなに時間がかかるものだったかしら……。
何分相当前の記憶すぎて、ギルといい感じになったのがゲーム内でどれほどの時間がかかっていたかまでは思い出せない。
「ああ、わかっている。気にするようにしよう。ではリリア、詳細や必要なものは追って連絡する」
「かしこまりました。お待ちしております」
そしてギルは、来た道を引き返していく。
その背中からは、少しだけ高揚した気持ちが伝わってくるようだった。
◆
「グレン、こんな気持ちのいい日にこんな薄暗い酒場に来ちゃだめだよ」
「マスターは俺の母親か何かか? 今日はあいつに付き合わなくてもいい日だから俺の勝手だろう」
そうして、グレンはついこの間まで自分の特等席だった場所に腰をおろす。
「少しは改善されたと思ったんだけどなあ……」
コトリ、と目の前にお気に入りのジュースを置くと「これもツケになるのか?」と逡巡したあと、悩ましい表情で飲み始めた。一応気にしてるんだねえ。
「そういえば、この間リリアさんのお店に行って唐揚げをご馳走してもらったよ」
「ゴホッ……‼」
「噂どおり美味しかったなあ。なかなかいいお店じゃないか。っていっても休みの日だったから僕たち以外に誰もいなくて、営業している様子は分からなかったけれどね」
ふいに切り出すと、グレンはジュースが気管にでも入ってしまったのか、むせて慌てた表情をしている。
「休みの日に、あいつと二人で……?」
「うん、お誘い頂いたからね。グレンがくる確立は3%だって言ってたよ」
「ふん……誰が好き好んで休みの日にあいつの店に行くかよ」
本当に、素直じゃないなあ。
明らかに感情を表現するようになってきているのにね。
そして、酒場の喧噪にまぎれて小さな声が聞こえた。
「余計なこと、するなよ」
思わず笑みがこぼれてしまう。
はいはい。――でもそれを決めるのは、僕だよ。
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これにて第三章終了(たぶん……)です!
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