第24話


「へえ、そんなことがあったとは、面白いねえ。僕も食べるのが楽しみだよ」


今日は『リリーフィオーレ』の定休日。開店してから少し時間が経ってしまったけれど、やっとマスターを招待することが出来た。グレンにも声をかけたけれど、来る確立はきっと3%くらいね。


「お待たせしました、お口に合うかわからないですけれど……」


コトリ、と唐揚げを盛った皿をマスターの前に置くと、マスターは丁寧な所作で「いただきます」をした後、一つ口に頬張り「う~ん、これは確かにおいしいねえ」と破顔した。





「――で、リリアさん、グレンとはどう? 上手くやってる?」


あっという間に唐揚げを平らげ、食後の紅茶を飲みながら最近のことを話していると、マスターが切り出してきた。


「上手く、かどうかはわからないですけれど。基本的にソファーで寝転んでいるか、ご飯食べているかのどっちかです。でもまあ、いてくれて安心感があります」

「そっかあ、態度はアレだけど、グレンがちゃんと店に来ている事が僕は驚きだけどな。きっと居心地がいいんだろうねえ」


そうなの? 口を開けば文句しか出てこないし、基本的にだらだらしているだけだけど。一応店にはちゃんと来てくれていることが、特別なことだと認識していなかったわ……。


「グレンはね、自分が嫌だと思ったことはしないし、そのあたりははっきりしている奴だよ。リリアさん、これからもグレンのことをよろしくね」


マスターが優しいほほえみで語りかけてくれる。きっとマスターなりに、グレンがずっと酒場に入り浸っていることや、仲間を見つけられないことを心配してたんだろうな。


「ええ、少しずつ、ちゃんと仕事をしてもらえるように頑張ります」

「はは。さすがリリアさんだ。僕も安心していられる。リリアさんも、早く魔法がつかえるようになるといいねえ」

「ええ、本当に。まだ魔法使いのお客様は少なくて、技を盗み見る機会もなかなかないんです」

「それにしても、魔法が使えなくなるなんて厄介なこともあるんだねえ……」


カチャ、とマスターがカップを置く。

そうして、マスターは優しい菫色の瞳をすう、と細めて――


「で、きみは一体なのかな?」


静かな店内に、マスターの固い声が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る